地方の生活費は本当に安い?「ひらかれた福祉」が生む新しい地域コミュニティ
地方の生活費は本当に安い?「ひらかれた福祉」の事例

「都心は物価が高く生活しづらい」「地方は物価が安く生活費が抑えられる」といった一般的な認識は本当なのか。お金の扱い方に都心と地方で違いはあるのか。連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織氏が、東京と地方の両方での生活経験を踏まえながら、お金に関する情報を伝えている。

「福祉」の新しいかたち

「福祉」と聞くと、高齢者や障害者を支援する特別な制度という硬いイメージを持ちがちだ。しかし昨今、全国の自治体や地域では、住民全員の暮らしを楽しく豊かにする「福祉」の取り組みが広がっている。地方移住を考える際、自然や住まいの広さだけでなく、「その街でどんな日常を過ごせるか」は重要なポイントとなる。地域に開かれたユニークな福祉の事例を紹介する。

世代を超えて通える新しい銭湯

栃木県那須塩原市の福祉施設内にある公衆浴場「長寿の湯」は、福祉施設が「誰もが洗練された空間で心地よく過ごせる場」へと進化した好例だ。従来の古い銭湯のイメージを一新するスタイリッシュで清潔感あふれる空間で、黒湯の浴槽まではゆるやかなスロープが設置され、高齢者から小さな子どもまで安心して入浴できる。

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利用対象は高齢者や障害のある方に限定されず、市内に住む人や働く人なら誰でもリーズナブルに天然温泉を楽しめる。バリアフリーな環境で若者からシニアまでが自然に交流し、「支援する側・される側」という垣根を取り払い、多世代が集える新しい地域コミュニティを生み出している。

多様な人々が共生する「小さな街」

石川県金沢市の「シェア金沢」は、社会福祉法人が手掛けた約1万1000平方メートルのコミュニティエリアだ。メディアや行政から「ごちゃまぜの街」として注目を集めている。敷地内には、サービス付き高齢者向け住宅や障害者の就労支援施設、障害児入所施設に加え、学生向け住宅、天然温泉、ドッグラン、売店、レストラン、アルパカが暮らす広場までが一体となっている。

障害のある方は敷地内の飲食店や温泉施設で働くことができ、近所の親子が散歩がてらアルパカに会いに訪れる。「福祉施設」という壁を取り払い、多様な人々が混ざり合って暮らす1つの「小さな街」をつくることで、誰もが孤立せず自然と助け合える環境が整えられている。集会や催し物の開催・運営など暮らしに関わることは住民参加で決められる。

「孤立を防ぎ、誰もが役割を持ってワクワク暮らすための街づくり」の中に「福祉サービス」が溶け込む先進的なモデルだ。

「ひらかれた福祉」がもたらす魅力

都心部の生活は便利で刺激的だが、隣人との距離が遠く寂しさを感じる人もいるだろう。一方、「ひらかれた福祉」が根付く地域には、次のような魅力がある。

  • デザイン性や使いやすさに配慮された銭湯や多世代が集う交流拠点など、一人でふらっと行っても誰かと緩やかにつながれる「居場所」が街中にある。
  • 制度としての福祉だけでなく、街全体に「お互い様」という空気が流れ、子育て世帯や移住者も安心して馴染める。
  • 効率や生産性だけを求めない、人の温もりに触れる時間が暮らしの満足度を高める。

移住先を検討する際は、観光地や移住支援金といった条件だけでなく、その自治体や地域がどんな「福祉(=人々の幸せな暮らしの仕組み)」をつくっているかに注目してほしい。そこにはきっと、都心では味わえないあたたかく豊かな暮らしの選択肢が待っている。

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