大学の理系拡充、若者に響かず?社会との関わり考える機会を
理系拡充、若者に響かず?社会との関わり考える機会を

日本財団が6か国の17~19歳を対象に今年実施した意識調査で、「国や社会に役立つことをしたい」と答えた割合が日本の若者で最も低かった。こども家庭庁が日本と米国、ドイツ、スウェーデンなどの若者を対象に行った2023年の調査でも、「社会をよりよくするため社会問題解決に関わりたい」という日本の若者は際だって少ない。

韓国の教師が懸念する理工系衰退

日本と韓国の経済団体による交流事業で来日した韓国の高校教師たちから、「医学部への進学希望が過熱している」「高収入で安定した職業の医師に人気が集中する」との発言が相次いだ。半年余り前、都内で開かれた日本の教師との意見交換会でのことだ。

韓国では難関大の入試でも高校の成績が重視されるため、校内の競争が激化し、成績をつける教師への重圧も大きいという。日本側の参加者から目立った反応はなかったが、医学部人気が高いのは日本も同様だ。特に理系が得意な女子の医学部志向は顕著で、理工系学部に女子学生が増えない一因とされる。

印象的だったのは、韓国の教師から「医師に優秀な学生が集中すると理工系分野が衰退し、科学技術が発展しないのではないか」と国全体への影響を懸念する声が多く聞かれたことだ。日本の学校関係者にはあまりみられない「俯瞰的」な視点のように思えた。

教育評論家が指摘する経験不足

教育評論家の尾木直樹さんはタイ、インドネシアなどの学校を視察すると「将来は国の発展に尽くす仕事をしたい」と「大志」を語る子どもに出会うという。「日本でそうした言葉を聞かないのは、社会の中でどんな役割を果たしたいかという視点で考える経験が少ないからでしょう。国情の違いもあり、希望の進路を自由に選べる環境は望ましいことではありますが」と話す。

確かに「国のため」といえば、かつての日本を想起させる。明治政府は「富国強兵」を掲げて理工系人材の育成に力を入れ、軍事力、技術力の強化を図った。

教師が主人公の小説「坊っちゃん」の発表から今年で120年の夏目漱石は、自らも教師経験を持つ。帝国大学在学中の論文では「国家の為に人間を教育するという事は理屈上感心すべき議論にあらず」と当時の風潮を批判。「教育は只教育を受くる当人の為めにするのみにて」「人間として当人の資格を上等にしてやるに過ぎず」という訴えは時空を超えた正論だろう。

理系人材不足への危機感

大学進学率が6割近い令和の時代、政府は再び「理系拡充」に舵を切っている。背景にあるのは、他の先進諸国に比べて低い理工系学生の割合で、「2040年に理系人材が100万人以上不足し、文系人材が大量に余る」という推計が危機感を募らせる。

国の補助金を活用し、情報系学部を新設する文系の大学が増えているが、受験生人気は広がりに欠け、定員割れも目立つ。高校が早期に生徒を文系・理系にコース分けすることの影響もあるようだ。「そもそも本格的な理工系学部の設置には、資金も教える人材も不足している」と大手私立大の学長経験者は指摘する。