千葉県公立小学校教員の松尾英明氏は、文部科学省が夏休み中の学校開放を要請したことに対し、現場の教師たちが失望していると警鐘を鳴らす。長期休業中、学校給食が止まることで家庭の経済状況や生活環境の差が子どもの生活に直接現れやすいことは事実だが、こうした支援は社会全体で考えるべき課題であり、学校に全てを任せるべきではないと主張する。
学校開放の現実的な課題
学校を開放するということは、単に校舎の鍵を開けて場所を提供するだけではない。子どもが来れば、安全管理や出入りの確認、熱中症対策、子ども同士のトラブル対応、けがや体調不良時の保護者連絡や初期対応、場合によっては救急対応まで必要となる。つまり、運営責任が発生する。この点があいまいなまま「子どもの居場所確保」という言葉だけが先行することに、松尾氏は強い違和感を覚えるという。
文科省は教員の業務が増える可能性に触れ、働き方改革に留意するよう求め、地域の各種団体やボランティアへの安全管理や見守りの依頼を想定しているとされる。しかし、現場で実際に問われるのはもっと具体的なことだと松尾氏は指摘する。
具体的な運営上の疑問点
誰が鍵を開け閉めするのか、冷房の管理は誰がするのか、子どもの出入りは誰が確認するのか、トラブルが起きたら誰が対応するのか、けがをしたら誰が責任を負うのか、保護者からの苦情に誰が説明するのか、ボランティアが来られなくなった日は誰が穴を埋めるのか、昼食はどうするのか、午前だけなのか一日なのか、定員を超えたら誰が断るのか――これらの問いに答えないまま「学校を開放する」と言うなら、それは制度設計ではなく善意への依存だと松尾氏は批判する。
学校は地域にとって重要な公共施設であり、災害時には避難所にもなる。地域の子どもを支える拠点でもある。その意味で学校施設を地域に開く発想自体は否定されるべきではないが、学校は「困ったときに最後に頼れば何とかなる無料インフラ」ではないと強調する。
社会課題の学校への集中を懸念
この考え方を取り違えると、あらゆる社会課題が学校に流れ込むことになる。家庭の問題、地域の問題、貧困の問題、安全管理の問題、長期休業中の居場所の問題など、全てが学校に寄せられる。学校は子どものために存在しているからこそ、子どもの生活課題に無関心ではいられないが、願っていることと何でも学校が引き受けることは別問題だと松尾氏は述べる。
学童保育との整合性も問われる。既存の学童保育施設との役割分担や、放課後児童クラブとの連携など、検討すべき課題は多い。文科省の要請は、こうした既存の制度との調整なしに進められている点も問題だ。



