文部科学省は2026年7月、全国の学校に対し夏休み中の施設開放を要請した。しかし、この方針に対して現場の教員からは強い反発の声が上がっている。千葉県公立小学校教員の松尾英明氏は「学校現場はすでに多くの役割を抱えており、これ以上の負担は持続不可能だ」と警鐘を鳴らす。
教員の負担は限界に達している
学校現場が担う業務は多岐にわたる。授業、学級経営、生徒指導、保護者対応、校務分掌、研修、会議、行事準備、成績処理、個別支援、地域対応に加え、近年は貧困、虐待、不登校、発達特性、ヤングケアラー、ICT、働き方改革など、新たな課題が次々と追加されている。文科省自身も学校における働き方改革を推進し、教師の人間性や創造性を高めることを目指しているが、今回の開放要請はその方針と矛盾すると批判されている。
松尾氏は「負担にならないように留意するという言葉だけでは足りない。負担を生まない仕組みにしなければならない」と強調する。特に問題視されるのが、無料開放が生む需要の拡大だ。学校を無償で開放すれば、利用希望が増えるのは避けられない。本来支援が必要な家庭だけでなく、保護者が疲れている家庭や、子どもが一日中家にいることに負担を感じる家庭も利用するようになる。
無料開放がもたらす需要の拡大
当初は午前中だけの居場所として開放しても、やがて「昼食はどうするのか」「できれば一日預かってほしい」といった要望が生まれる。自主的な利用のつもりが、実質的な預かり機能を期待されるようになり、一度受け入れ始めると現場は断りにくくなる。「子どものため」「家庭が困っている」といった言葉に、学校現場は弱い。結果として、居場所の開放が夏休み中の無料預かり施設に変質する危険があると松尾氏は指摘する。
学童保育との整合性が課題
既存の放課後児童クラブ、いわゆる学童保育との関係も大きな問題だ。夏休み中の子どもの居場所としては、まず学童保育の充実を図るべきだという意見がある。学童保育は保護者が労働等により昼間家庭にいない小学生に遊びと生活の場を提供する制度であり、すでに受け皿が存在している。しかし、学童保育を強化せずに学校開放という別ルートを作れば、有料の学童保育と無料の学校開放が並立することになる。
保護者にとって学校は最も安心感のある場所の一つであり、教員がいて校舎があり通い慣れている。無料で利用できるなら学校を選ぶのは自然な流れだ。松尾氏は「学童ではなく学校へという流れが生まれれば、既存の学童保育制度を弱めかねない」と懸念する。
学童保育の現場も厳しい
学童保育の現場も決して余裕があるわけではない。放課後児童支援員は子どもの安全を守り、生活を支え、遊びを保障し、保護者と連携する専門的な仕事であり、特に夏休みは一日を通した生活支援が必要となる。それだけの責任と労働を担いながら、処遇や人材確保には課題が残る。
松尾氏は「学校を開く前に、学童保育を厚く支えるべきだ」と主張する。文科省の要請は、働き方改革と矛盾し、教員の負担を増やすだけでなく、既存の制度を弱体化させる危険性をはらんでいる。現場の声を無視した政策は、子どものためにもならないと結論づけている。



