理系人材不足と文系人気復活、文理選択の現在地を探る
理系人材不足と文系人気復活、文理選択の現在地

大学受験を控えた高校生にとって、文系と理系の選択は進路を左右する大きな分岐点だ。社会のデジタル化に対応できる人材が不足する中、政府は理系の割合を増やす政策を進めている。一方で、就職市場の「売り手市場」を背景に、文系人気が復活しているという。

理系人材の需要と現状

大手総合化学メーカーの三菱ケミカルは7月30日、女子中高生向けに仕事体験プログラムを開催した。技術職出身で人材開発を担当する上野真梨子さんは、女子生徒約20人に対し、理系女子が活躍できる職場であることをアピールした。都立高1年の田中千晶さんは「文理選択に迷っていたけど、理系は色々なことが出来そうだ」と興味を示した。

同社の2026年4月入社の新卒採用では、文系(事務系)25人に対し、理系(技術系)は大学院卒を中心に91人に上る。しかし、理系の女性新入社員は33人と36%にとどまる。上野さんは「技術系は女子学生が少なく、当社の女性社員の割合も全体の2割に満たない。女子生徒には理系の仕事に興味を持ってほしい」と話す。

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国際比較と政府の目標

経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA)で、2022年に日本は「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」で加盟国(37か国)のトップだった。しかし、理工系学部に入学した国内の大学生の割合(23年時点)は19%で、ドイツ(37%)の半分以下。女子の入学者は8%と加盟国平均(16%)で最低だった。

政府の総合科学技術・イノベーション会議は、理工系進学の低さの背景として「理系の職業にイメージがわかない」ことや、女子に対する「理数系に向いていない」という性的偏見、文理分断による「学びたい学部の受け皿がない」ことなどを挙げた。経済産業省の推計では、2040年の労働需給ギャップで理系人材は大卒・院卒で計123万人不足し、AI(人工知能)やロボットなどを運用する人材は339万人不足する。

7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」には、「理工・デジタル人材育成を含む大学・大学院の機能強化」や「人社系(文系)のダウンサイジング」が明記された。2040年の目標として、高校普通科では理系・文系の生徒の割合を同じ程度にし、大学では理工農、デジタル、保健系の定員を全体の5割に引き上げることを掲げる。

文系人気の復活と専門家の見解

一方で、文系人材の価値を強調する声もある。早稲田大政治経済学術院の有村俊秀教授は、東京大理科1類から「文転」した経験を持ち、「どんなに優れた科学技術を導入しても、理系の観点だけでは、正しい判断はできない。文化や歴史など長いスパンで物事を理解する視座が不可欠だ」と主張する。

文部科学省によると、大学で法学や経済学など人社系を学ぶ学生は2024年度に29万人で、全体の46%と半数近くを占める。大手予備校の河合塾によると、大学入試ではコロナ明けの24年頃から人社系学部の志望学生が増えているという。河合塾の近藤治・主席研究員は「資格を取得できることで就職に強い理系は、就職難の時に人気が高まる傾向にある。現在は、コロナ明けから学生優位の『売り手市場』が続いており、専門に縛られず、就職先の自由度が高い文系志望が増えている」と解説する。

明治大法学部4年の浜田航輝さんは、高校2年で文系を選んだ理由について「数学は好きだったけれど、専門性のある弁護士になりたいと考えて文系を選んだ。同級生も自分のやりたいことや得意なものを基準に選択していた。社会に理系が不足しているからといって、国の方針で、理系が増えるとは思えない」と話す。

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文理区分けの歴史と未来

高校での文系・理系のコース分けは、大学進学率の上昇と入試制度の変化に伴い、1980年前後から90年代にかけて強化された。代々木ゼミナールによると、1979年から国公立大で導入された共通一次試験は5教科7科目(社会と理科は2科目選択)だったが、87年から社会と理科が1科目選択となり、90年からは大学入試センター試験に移行。各大学で文系と理系の受験科目が明確に分かれ、2年次から文理分けする高校も増えた。

文部科学省の2024年度の推計では、高校普通科(最終学年)生徒の45.6%が文系、27.1%が理系、コース分けがない高校の生徒は27.2%だった。文科省は今年2月、2040年に向けた高校教育改革の基本方針で、将来的に文系と理系の区分けがなくなることを目指すと発表した。デジタル技術の進歩により、文系・理系を問わずAIに代替されない能力の育成が必要だという理由からだ。生徒や保護者に「特定の科目だけ重点的に学び、有名大学の文系に行けば生涯安泰」という前提意識があるとすれば、「15年後の未来は、そうした前提が崩れている可能性が大きい」と警鐘を鳴らす。