文部科学省が全国の学校に対し、夏休み中の子ども預かり施設として校舎を開放するよう要請したことに、現場の教員から失望と懸念の声が相次いでいる。千葉県公立小学校教員の松尾英明氏は、「困ったら学校にお願い」という発想の危うさを指摘する。
学童保育の現場は非常勤が大半、専門性の確保が課題
こども家庭庁の調査によると、放課後児童支援員の常勤職員率は27.1%にとどまり、補助員や周辺業務職員を含めても常勤率は32.4%と、学童クラブの現場では非常勤職員が圧倒的に多い。この数字は、子どもの安全と生活を預かる仕事が安定的な専門職として十分に支えられていない実態を示している。
国の予算資料には、放課後児童支援員の処遇改善やキャリアアップ、月額9000円相当の賃金改善、障害児受け入れ加配、要支援児童対応、人材確保などの項目が並ぶ。松尾氏は「これは裏を返せば、学童保育を支える人材と処遇がまだ十分ではないということだ」と述べる。
学校開放より学童保育の充実を優先すべき
松尾氏は「学校を開く前に、学童保育を厚く支えるべきだ」と強調する。学童保育の利用料が高くて利用をためらう家庭には補助を、職員の処遇が低く人材確保が難しいなら予算を、待機児童がいるなら受け皿整備に予算を投入すべきだと主張する。
「既存の制度を弱いままにしておいて、学校を無料の受け皿として開く。これは順番が逆である。子どもの居場所が必要なのは確かだが、それは『場所』だけの問題ではない。子どもを見る大人の専門性、処遇、継続性、責任体制の問題だ」と指摘する。
学校開放は補完策、本丸は社会制度としての居場所づくり
学校開放はあくまで補完策であり、最初に持ち出すべき本丸ではないと松尾氏は言う。「今回の問題の本質は、学校を開けるかどうかではない。『子どもの居場所づくり』を社会の制度として引き受ける気があるのか。そこが問われている」
具体的に必要なのは、予算、人員、そして責任ある制度設計の3点だ。冷房の電気代、見守り人件費、消耗品費、事故対応の保険や緊急体制など、あいまいにしたまま「地域で工夫を」と言えば、自治体や学校現場が持ち出しで対応することになりかねない。
また、子どもを安全に受け入れるには一定数の大人が必要で、ボランティアだけでは限界がある。「善意は制度の補助にはなっても、制度の土台にはならない」と松尾氏は警告する。



