大谷中高が150周年テーマ「問い、気づく。問い、築く。」を掲げる理由
大谷中高、150周年テーマ「問い、気づく。問い、築く。」を掲げる

京都市にある大谷中学・高等学校(真宗大谷派)は、創立150周年を迎えた昨年、新しいテーマ「問い、気づく。問い、築く。」を掲げた。これは、建学の精神である真宗大谷派の宗祖・親鸞の言葉「樹心」への思いを、生徒全員で考え、議論してまとめたフレーズだという。変化の激しい現代の教育に、その精神をどう生かすのか。乾文雄校長に話を聞いた。

「自分はどうなんだ」という問いが教育の核

乾校長は1964年、滋賀県生まれ。関西外国語大学外国語学部スペイン語学科を卒業し、日本語教員を務めた後、大谷大学・大学院で仏教を学び、1999年に大谷中学・高等学校の宗教科教諭となる。英語科も担当し、高校の「バタビアコース・グローバルクラス」の設置に携わった。2024年4月から現職。実家の真宗大谷派寺院住職も務めている。

――校長は僧侶でもあるわけですが、仏教と教育の関係をどう考えますか。

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私は、滋賀県にある真宗大谷派の寺院の長男として生まれましたが、高校生の頃は実家を継ぐという「レールを敷かれた人生」に強い反発を感じていました。そこで家から通えない大学を選び、さらにはスペインへ「国外脱出」を図るほど、寺から逃げ回っていました。

しかし、あるとき友人に「食わず嫌いではないか」と指摘されたことが転機となり、大学卒業後に全寮制の僧侶養成校「大谷専修学院」で仏教を学び始めることにしたのです。そこで出会った仏教学者の中川皓三郎先生からいただいた「お前は一体、誰を生きようとしているんや」「他人評論家にでもなるつもりか」という問いが、今も私の根底にあります。当時は意味が分かりませんでしたが、後に自分が正しいという立場に立って他人を責めることのむなしさに気付かされました。

仏教は、ひたすら「自分はどうなんだ」と内側に矢印を向ける教えです。この「問い」こそが、生徒たちに伝えたい教育の核となっています。多感な中学時代に価値観の根っこを育む。

「樹心」を基にした新テーマ

――昨年打ち出した新しいテーマについて説明してください。

昨年は、150周年のテーマとして、「問い、気づく。問い、築く。」というテーマを掲げました。これは本校の建学の精神である「樹心」に基づくものです。浄土真宗における言葉で、「揺るぎない仏の教えをよりどころにする」という意味があります。この「樹心」について生徒たちはどう思うのか、全員にアンケートを取り、それらを基に議論してまとめたのが「問い、気づく。問い、築く。」というテーマです。答えをすぐに求めるのではなく、自分自身に問いを立て、何かに出会ってハッと気付く、そのプロセスこそが世界を広げる力になると信じています。

私たちが一貫して大切にしているのは「人間教育」です。仕事や健康、家族など、移ろいゆくものだけを頼りにするのではなく、何があっても揺るがない「自分はここで生きていくんだ」という立脚地の感覚を持ってほしいと考えています。たとえ人生で失敗しても、それを受け止めてくれる大地があれば、安心して生きていけます。中学生という多感な時期に、こうした価値観の根っこを育みたいと考えています。

バタビアシステムと5ラウンドシステム

――そうした人間教育を教育現場でどう具体化しますか。

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本校の教育の特色にバタビアシステムがあります。これは1880年代にアメリカのニューヨーク州バタビア市の学校で始められた授業の方法で、教科担当とクラス担任の2人が同時に教室に入ることが最大の特徴です。本校は1960年に日本で初めて導入しました。教科担当が指導する一方で、担任は生徒一人一人の表情を見守り、つまずいている生徒がいないか、集中できているかを確認します。担任が授業を共に聞くので、面談の際にも「この生徒は数学のこの部分で苦労していたな」といった具体的なアドバイスが可能です。生徒と教員の距離がとても近くなり、生徒が安心して学べる環境が生まれています。

中高6年一貫部は、このバタビアシステムを採用して、中学では、国公立大を目指す「バタビアコース・マスターJrクラス」と難関私大を目指す「バタビアコース・コアJrクラス」に分かれます。高校からは、「バタビアコース・マスタークラス」「バタビアコース・コアクラス」になり、さらに模擬国連の取り組みなどを通して国際人を目指す「バタビアコース・グローバルクラス」と、指定校推薦・協定校推薦などを活用しながら大学進学を目指す「インテグラルコース」が加わります。「インテグラルコース」は、勉強以外にも部活動などに情熱を注ぎたい生徒向けです。また、「バタビアコース・グローバルクラス」では、カリフォルニア大学デービス校と連携し、高校3年間で2回の1か月留学を実施します。1度行ってできなかったことを痛感し、1年間本校で鍛え直して再び挑む。このサイクルが、語学力だけでなく人間的な大きな成長につながっています。

――英語教育では「5ラウンドシステム」が効果を上げているそうですね。

1年間で同じ教科書を5回繰り返すという学習法です。最初は聞くだけ、次は声に出す、意味を取る、というふうにラウンドを重ねるごとに定着させていきます。文法を先に詰め込むのではなく、言語を学ぶ自然な過程を大切にしています。導入から8年ほどたちますが、リスニングやスピーキングだけでなく、リーディングやライティングのスコアも大幅に向上しました。中3でのシンガポール・マレーシアへの研修旅行は、この学びを試す貴重な実践の場になっています。

保護者・地域との連携とメッセージ

――保護者や地域との連携にも力を入れていると聞きます。

保護者の方々とも、共に生徒たちを育てる関係でありたいと考え、保護者向けの仏教講座「今熊野セミナー」なども開講しています。年間10回ほど来校の機会がありますが、保護者同士のつながりを持ちやすいとは必ずしも言えません。そこで「地域懇談会」を開催し、保護者の方が悩みや情報を共有できる場を大切にしています。学校行事も保護者の協力なしには成り立ちません。学校関係者以外に5000人以上が訪れる学園祭の盛り上がりは、教職員、生徒、そして保護者が同じ方向を向いているからこそ実現できるものです。

――受験生や保護者にメッセージはありますか。

本校は、生徒が進む道にある砂利をすべて取り除いて舗装道路を用意するような学校ではありません。むしろ、思い通りにならない経験を大切にしています。友達とうまくいかない、テストの結果が振るわない。そうした砂利道でつまずきながらも、自分で道を整えていく力を養ってほしい。私たちは「転ばぬ先のつえ」を用意することより、転んでも放っておかないことを大切にしています。違いを認め合い、共に歩む。そんな「感じのいい人」になって社会へ羽ばたいてほしいと願っています。共に歩んでいきたいという皆さんと、ここでお会いできることを楽しみにしています。