発達科学コミュニケーション代表で学術博士の吉野加容子氏は、褒めるのが苦手な母親でも、特定の「声かけ」によって子どもの困った行動を変えられる可能性があると指摘する。その鍵は、叱る前に「できている事実」に注目することだ。
「肯定のシャワー」が脳を育てる
吉野氏によれば、発達障害やグレーゾーンの子どもは日常で叱られる経験が多く、自信を失いがちだ。朝の支度や宿題、ゲーム、登校、かんしゃくなど、同じことで何度もつまずく姿に、親は「早くして」「何回言ったらわかるの?」「またやってないの?」「ちゃんとして」と注意したくなる。しかし、これらの言葉は子どもの脳を育てる基本ではないという。
「子どもの脳を育てる声かけの基本は、『注意から入る』ことではなく、『肯定から入る』ことです」と吉野氏は強調する。具体的には、「ここまで、自分でできたんだね」「なるほど、そう思ったんだね」「それ、もう取りかかってるじゃん」といった、できている部分を認める言葉が効果的だ。
失敗の中にも「できた」を見つける
一見、失敗に見える行動の中にも、できている部分は隠れている。宿題を全部やっていなくてもノートを出していた、着替えが終わっていなくてもパジャマを脱ごうとしていた、ゲームをやめられなくても声に一瞬反応した、かんしゃくを起こしていても少し離れた場所で自分を落ち着かせようとしていた——そうした小さな事実を見つけて言葉にすることが「肯定のシャワー」となり、子どもの脳に自信を育て始める。
「自信がなければ、人は行動をためらいます。『どうせまた怒られる』『どうせできない』『どうせ自分はダメだ』と感じている子どもは、行動する前から脳が止まりやすくなります。行動量が減れば脳を使う機会も減り、発達のチャンスも減ってしまう。だからこそ、逆のサイクルをつくるのです」と吉野氏は説明する。
行動と自信の好循環
「できた」「見てもらえた」「もう一回やってみよう」と感じられると、子どもは少しずつ動き出す。行動量が増え、脳を使う回数が増え、成功体験が増え、さらに自信が育つ。このサイクルが回り始めると、子どもの変化は目に見えて現れる。
吉野氏は、このアプローチは発達障害やグレーゾーンの子どもだけに限らないと述べる。「人は誰でも、叱られれば自信を失います。肯定され、できた経験を重ねれば、次の行動に向かいやすくなります」
「肯定」と「おだて」の違い
ただし、吉野氏は「肯定」と「おだて」は異なると注意を促す。おだては結果や能力を過剰に褒める行為で、子どもがプレッシャーを感じたり、努力を軽視したりする原因になり得る。一方、肯定はプロセスや事実に焦点を当て、子どもの内発的動機を育む。例えば、「すごいね」ではなく「ここまで自分でやったんだね」と、具体的な行動を認めることが重要だ。
吉野加容子氏は、発達科学コミュニケーションの代表として、家庭での声かけを通じて子どもの発達を支援する方法を広めている。今回の記事では、褒めるのが苦手な母親でも実践できる具体的な声かけの例を挙げ、子どもの行動変容につなげるヒントを提供した。



