「私、褒めるのが下手なんです」――発達障害やグレーゾーンの子育てに悩む母親から、吉野加容子氏(発達科学コミュニケーション代表・学術博士)はよくこんな言葉を聞くという。同氏の新刊『発達障害・グレーゾーン 子育て大変だと思ったら これ、言ってみて!』では、子どもの困った行動を「性格」や「わがまま」ではなく、「脳の特性」から捉え直し、家庭でできる発達支援を提案している。
「褒める」が苦手でも、肯定はできる
「すごいね」「えらいね」「よくできたね」と明るく褒めるのが理想的だとわかっていても、うまく言葉が出てこない、どこを褒めればいいかわからない、無理に褒めるとわざとらしくなる――そんな経験はないだろうか。吉野氏は、脳を育てる声かけに必要なのは上手に褒めることではなく、子どもが「今できている事実」に気づき、それを短く言葉にすることだと強調する。この方法を「肯定のシャワー」と呼び、褒めるのが苦手な母親ほど効果を発揮するという。
叱るより先に、「できている事実」を見る
吉野氏によれば、発達障害やグレーゾーンの子どもは、脳の特性から「できないこと」が目立ちやすい。しかし、親が「できていること」に焦点を当て、短い肯定の言葉をかけることで、子どもの行動が変わり始める。例えば、宿題に取りかかれない子に「座れたね」と声をかけるだけで、脳にポジティブな刺激が伝わり、次の行動につながりやすくなるという。
「見て見て!」は、成長のサイン
子どもが「見て見て!」と何度も親を呼ぶ行動は、わがままではなく、成長のサインだと吉野氏は指摘する。これは「自分ができたことを認めてほしい」という脳の欲求の表れであり、ここで「すごいね」と短く肯定することで、子どもの自己肯定感が育まれる。逆に無視したり「後でね」と先延ばしにすると、子どもは「どうせ見てもらえない」と学習し、やる気を失う恐れがある。
BB弾でお母さんを撃っていた子が、やさしい青年に変わった
本書では、実際の事例も紹介されている。かつてBB弾で母親を撃つような行動が見られた子が、母親が「できている事実」に注目した声かけを続けた結果、数年後には周囲に気遣いのできるやさしい青年に成長したという。吉野氏は「脳は育て直せる」と述べ、家庭での肯定的な声かけの重要性を強調する。
褒め言葉は、短いほど子どもの脳に届く
吉野氏は、褒め言葉は短いほど子どもの脳に届きやすいと説明する。「すごいね」「できたね」「ありがとう」など、3〜5文字のシンプルな言葉が効果的だ。長々とした説明や大げさな褒めは、かえって子どもにプレッシャーを与えたり、嘘っぽく感じさせたりする。大切なのは、タイミングよく、具体的な事実に基づいた短い肯定のシャワーを浴びせることである。
「もしかして、うちの子って他の子と少し違うのかもしれない」――そんな違和感を抱えながら子育てに疲れ切っている親にとって、吉野氏の提案する「肯定のシャワー」は、特別なスキルや知識を必要としない、今日から実践できるアプローチだ。褒めるのが苦手な母親ほど、この方法で子どもの行動を変えられる意外な理由が、ここにある。



