普連土学園の教養講座、印刷博物館で活版印刷を体験
普連土学園の教養講座、印刷博物館で活版印刷を体験

東京都港区にある普連土学園中学校・高等学校は、教科外でも生徒の成長につながる学習機会を提供しようと、25年前から春と夏の長期休みに「教養講座」を実施している。今年度の夏期も34の多彩な講座が企画され、8月6日には東京都文京区の印刷博物館を訪れる講座が行われた。

印刷の歴史を学び、活版印刷にも挑戦

この日午後3時、講座を企画した石堂敬介教諭と生徒たちが、東京都文京区のTOPPAN小石川本社ビル内にある印刷博物館に到着した。参加生徒は中1が3人、中2が6人、中3が2人、高1が3人、高2が2人の計16人。受け付けを済ませると、地下1階にある「プロローグ」という展示エリアに集合した。

このエリアには、高さ7メートル、長さ40メートルのカーブした壁面があり、印刷がなかった時代の世界から、印刷が始まり現代へと続く、文字と印刷にまつわる古今東西の史料が展示されている。同博物館の主席学芸員・緒方宏大さんのガイドを受けながら、生徒たちは紀元前18世紀に遡る「ハンムラビ法典碑」や、現存する世界最古の印刷物と言われる「百万塔陀羅尼」、福岡県の志賀島で発見された「漢委奴国王」の金印、杉田玄白らが翻訳した「解体新書」などを見学した。展示物はほとんどレプリカだが、実際に手に触れ、体感できるのがメリットだ。

多くは教科書の挿絵でしか見られないものだけに、緒方さんの解説のたびに生徒たちから「へぇー」と感嘆の声が上がる。最初はざわついていた生徒たちも徐々に引き込まれ、真剣に耳を傾けていた。

コースター作りで活版印刷を体験

壁面に沿って約30分の解説を受けた後、常設展エリアへ移動し、30分の自由見学時間となった。生徒たちは、さまざまな色のスタンプを重ね捺しして版画の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を再現する体験を楽しんだり、印刷の歴史を記した年表パネルに見入ったり、活版印刷のクイズに挑戦したりして、思い思いの時間を過ごしていた。

最後は「印刷工房」に移動し、オリジナルのコースター作りに挑戦した。生徒たちは活版印刷の歴史について解説を受けた後、2人1組に分かれ、1950年代に使用されていた小型の活版印刷機に活字を組んで、模様入りの紙製コースターにメッセージを印刷した。メッセージは「Thank you so much」や「Enjoy your vacation!」などの6種類から選ぶ。コースター上に鮮やかな文字が浮かび上がると「できた」「すごい」など喜びの声が上がった。

中2の平野帆夏さんは「教科書で見たことのある金印やオリンピックのポスターが印象的でした」と話した。同じく中2の三好玲奈さんは「博物館が自宅の近くにあっても意外と知らないので、教養講座で提案してもらえるとうれしい。今日は友達と一緒に参加できたのも良かったです」と感想を述べた。

校外の連携講座も増加

石堂教諭は「教科書や資料集に出てくる印刷技術や印刷物を、歴史的な事柄、資料として覚えるだけでなく、印刷物が歴史や文化に与えた影響や、社会の発展にどう関わってきたのかに気付いてほしかった」と語る。「東京近郊には博物館や資料館、裁判所や官公庁、大学や研究施設など多くの機関が集まっています。この環境を生かして、実際に自分の目で見て、体験してほしいです」

同校の教養講座が始まったのは2001年度だ。進路部長の片山聡一郎教諭は「教科学習の枠を外れても、教員が個人的に興味を持っていることや、生徒の成長につながるものを提供したいという思いから始まりました」と経緯を語る。

毎年春、夏に30前後の教養講座が開かれており、今年度の夏期も校内18、校外16の計34講座が企画された。内容は多岐にわたり、校内では「手ごねでパン作り」「3Dプリンターによるネームプレート作成」「普連土算数入試に挑戦!」「古着をリメイクしてみよう!」などが行われた。校外では、日常生活の中にある美について学ぶ「サントリー美術館で楽しむ器展」、ジュンク堂池袋本店での「選書ツアー」、木材製品の企画、デザイン、製造をする「FRONTIER JAPAN ショールーム見学」などが実施されている。対象学年や定員が決められている講座もあり、希望者が多数の場合には抽選になるケースもあるという。

高1の安藤七桜さんは、これまでに約30もの教養講座を受講している。今年度も夏期に10講座を受ける予定だ。「毎回、自分では行かないような場所が多くて楽しいです。将来、建築系の仕事に就きたいので、関連する教養講座には必ず参加するようにしています」。高1の後藤すみれさんも「教養講座はさまざまな知識を得ることができ、参加する度に自分の視野が広がります。きょうは、印刷の歴史に触れられるとても貴重な経験でした」と話した。

片山教諭によると、近年は校外の講座が増えているという。一人の教員が外部企業との連携講座を開講すると、教員間で「気軽に連携講座を企画してもよい」という雰囲気が醸成されるからだという。「地域で連携を強めている『田町・三田情報交換会』に参加するようになり、ますます多くの外部企業との連携が進んでいます。子供たちのために協力してくださる企業がたくさんあるのだと改めて気付かされました」

「企業との連携講座では、独自の施設や専門的なノウハウ、これまでの経験を生かした学びが得られます。これは教科学習では得られない貴重な経験です。生徒にとって外部企業との接触は『理念の実現』と『利益の追求』という二つの側面を知り、社会のリアルな空気感に触れる良い機会にもなっています。今後も、教員のやりたいという思いと、生徒の希望に合致した講座を企画していきます。『教養講座はこうあるべきだ』という型にはめることなく、可能な限り自由な発想で、色々なことに挑戦できる場にしていきたいです」