8月の千葉県を襲った豪雨は、短時間の強い雨が道路冠水などの都市型水害を引き起こす実態を浮き彫りにした。こうした事態を受け、自然の機能を街に取り入れる「グリーンインフラ」による雨水対策への関心が高まっている。専門家への取材と、東京都世田谷区での取り組みを基に、その効果と可能性を探る。
雨水を一時的にため、地中への浸透を促す仕組み
グリーンインフラは、自然が持つ機能を活用した空間や設備を街に設置し、雨水対策など多様な効果を期待する考え方だ。代表的なものに、周囲より低くした植栽空間の「雨庭」、溝状の植栽帯である「バイオスウェル(緑溝)」、舗装を減らして芝などで雨水を受け止める「緑化駐車場」がある。いずれも砕石層を設けるなどして雨水を一時的に貯留し、地中への浸透を促す構造だ。
都市型水害に詳しい東京理科大の二瓶泰雄教授(河川工学)は、都市では「降った雨が急速に下水道や川に集まる」と指摘する。地表面の多くが舗装され、雨水が地中に浸透しにくいため、側溝などを通じて速やかに下水道や河川へ流れ込み、流量のピークが早く、かつ大きくなりやすい。この急速な集中が道路冠水などの内水氾濫を招く要因となる。
内水氾濫の原因と、ピーク流量を減らす効果
河川の堤防を越えてあふれる外水氾濫とは異なり、内水氾濫は市街地の雨水を下水道などで処理しきれずに発生する。原因は大きく二つあり、一つは下水管や側溝の能力を超える雨が降ること、もう一つは排水先の大河川の水位上昇で下水管から水を流せなくなる「背水現象」だ。
都市化が進んだ1970年代頃から内水氾濫などの都市型水害が顕在化し、近年は局地的大雨による浸水被害が相次いでいる。気候変動への懸念から、対策強化が喫緊の課題となる中、二瓶教授はグリーンインフラの最も重要な効果として「ピーク流量を減らすこと」を挙げる。ダムが水をため流量を調整するのと同様に、街中の小さな設備が雨水を一時的に貯留する。個々の効果は小さくても、多数配置すれば雨水が一気に下水道や河川へ流れ込むのを和らげ、ピーク流量の抑制につながる。面的な普及が重要だという。
ただし、グリーンインフラだけで被害を防げるわけではない。二瓶教授は、河川対策、下水道対策、流域内の土地での「流域対策」がそれぞれの役割を最大限に果たすことが重要だと強調する。東京都の豪雨対策基本方針では、気候変動対応として目標降雨量を区部で1時間85ミリ、多摩部で同75ミリに引き上げており、河川対策、下水道対策、流域対策を組み合わせる方針だ。グリーンインフラは流域対策の一部に位置づけられている。
多面的な効果と世田谷区の取り組み
グリーンインフラの特徴は、雨水対策だけでなく、緑による夏の暑さの緩和、生物多様性や環境教育への貢献、美しい景観やにぎわいの創出など、多様な街づくり効果が期待できる点にある。二瓶教授は「住民が主体的に治水に関わることのできるツールでもある」と話す。
東京都世田谷区は導入に積極的な自治体の一つだ。公園などへの各種グリーンインフラ導入を進めるとともに、区民向け講座「世田谷グリーンインフラ学校」を開いて普及を図っている。同区は民有地が面積の約7割を占めることから、流域対策の推進には「区民の理解と協力が不可欠」としている。
都市に求められる新たな雨水との共生
豪雨とどう共生していくか。大規模なインフラ整備だけでなく、身近な地表の使い方を見直し、街のあちこちで雨水を少しずつ受け止めることも、今後の都市に求められる一つのあり方となっている。



