台風19号から7年、武蔵小杉の浸水対策と住民の共助体制の進展
台風19号から7年、武蔵小杉の浸水対策と共助体制の進展

2019年10月に東日本を襲った台風19号の上陸から12日で7年となる。川崎市内では大規模な浸水被害が各地で発生し、都市部での水害リスクが明らかになった。この間、どのような取り組みが進められてきたのかを追った。

武蔵小杉の浸水被害と教訓

台風19号で川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺で起きた大規模浸水被害は、現代の都市型水害のリスクに警鐘を鳴らすとともに、教訓も与えている。

「気づいた時には道路に水があふれ、マンションの1階はあっという間に、大人の膝の高さぐらいまで浸水した」。当時、同駅と多摩川に挟まれた中原区上丸子山王町に住んでいた女性会社員(53)は振り返る。7階建てマンションの最上階に居住していたため直接の被害を受けなかったが、浸水により故障したエレベーターは、しばらく動かなかった。「想像しなかった事態だった」という。

台風19号では、近くを流れる多摩川の水位上昇により、水が排水用の樋管から逆流する「内水氾濫」が起き、同駅周辺が浸水。地下に電気設備を持つマンションは、浸水による停電の影響でエレベーターや給水設備などが長時間使えなくなった。

建設計画の変更と指針の策定

国土交通省は20年6月、マンションやビルの浸水対策に関する指針を策定。「電気設備を十分な高さのある位置に設置」「出入り口などのかさ上げ」などの対策を講じることが望ましいとした。

台風19号の浸水被害を受けて建設計画の変更作業を行ったマンションもある。三菱地所レジデンス(東京都)などが武蔵小杉駅北側で開発を進めている、地上50階、地下1階建ての2棟の超高層マンションだ。電気設備を地下から地上へ上げ、敷地のかさ上げなどを決めた。地上階に電気設備を設置すると床の荷重対策が必要になるなどコストは増加する。同社の担当者は「予想できない水害に備えた対策は最重要課題。結果、国交省の指針に沿う計画になった」と振り返る。

住民の共助体制の構築

住民の「共助」意識も高まった。三井不動産レジデンシャルサービス(同)が管理する「コスギ サード アヴェニュー ザ・レジデンス」の住民は昨年、自主防災組織を設立した。都市型災害が多発する中、「万一の時には住民同士が協力する必要がある」との機運が高まったという。啓発活動は有志の住民が担っており、年に数回、非常食の試食イベントや広報紙の発行などを通じて防災意識を高めている。

同マンションは大型複合施設の中にある。駐車場と駐輪場の出入り口計3か所に設けられた止水板の設置が必要となる場合は、施設関係者が住民に作業への協力を呼びかけることにもなっている。

居住形態が分譲も賃貸もあり、居住者も多いマンションでは、防災に対する共通意識が高まりにくい事情もあった。だが、災害時には管理会社による物資の確保などの支援が間に合わないこともある。管理組合での備蓄品目の選定や、個人備蓄の呼びかけなどを住民主体で行えるようになり、同社の担当者は「主体的に動ける体制が作られたのは意義がある」と話す。

中原区によると、これで同駅周辺に12ある100メートル超の超高層マンション全てに自主防災組織が作られたという。倉又亮輔担当課長(危機管理担当)は「防災活動の推進体制が整い、マンション間や指定避難所との連携を進める基盤もできた」と評価する。

市の対策と今後の課題

市は台風19号の水害発生後、堤防のかさ上げ工事や監視カメラの設置など越水や氾濫への対策を進めてきた。だが、昨年9月11日の豪雨では、市内で床上・床下浸水計187件の住宅被害が出た。想像を超える局地的豪雨も含めた内水氾濫への対策までも完全に行うのは難しいという。

21年には内水氾濫を想定したハザードマップを作成し、公開した。江口義樹下水道計画課長は「19年の事態も念頭に、最悪の状況を想定してマップを作成した」と話す。一方で、「浸水被害を100%防ぐのは難しい。まずは人命第一に、短時間の豪雨時には垂直避難など適切な行動が取れるよう呼びかけを進めていく」と強調した。

近年は想定外の事態に見舞われることが増えた。被害を最小限に食い止める建物造りと、共助の体制作りやリスクに備えた自助意識の向上という、多面的な防災対策が必要になっている。