オウム真理教の一大拠点だった「富士山総本部」の跡地に建設された日本盲導犬総合センター「富士ハーネス」(静岡県富士宮市)が今月、創設20周年を迎えた。地下鉄サリン事件の捜査を警視総監として指揮した日本盲導犬協会の井上幸彦・前理事長は今夏88歳で死去したが、センターの担当者は「これからも盲導犬を届けていく」と話す。
記念式典で黙とう、遺志を継ぐ
今月1日に同センターで開かれた記念式典では、7月に亡くなった井上さんをしのぶ黙とうがささげられた。金高雅仁理事長(72)は「教団の跡地から福祉の里に生まれ変わってから20年。(これからも)社会に役立てるように尽力していきたい」と語った。
富士ハーネスは盲導犬の繁殖から訓練、引退後のケアまでを手がける多目的施設で、見学も常時可能だ。20年間で育てた盲導犬は122頭(9月末時点)、見学者は約45万3000人(同)に上る。
負の記憶から希望の場所へ
センターができたのは2006年10月。井上さんが盲導犬訓練施設を建設する場所を探していた時、この土地を見つけた。ここは教団が富士山総本部を置いた場所で、自然豊かで訓練施設に適していたが、教団撤退後は負のイメージから買い手が見つからなかった。
「盲導犬施設なら地域にも受け入れられるのでは」と井上さんらが土地を購入し、盲導犬訓練施設を建設。医療棟や訓練犬棟、分娩親子棟などを設け、盲導犬の育成に励んだ。
敷地内には今も「富士山麓の平和を念願し、ここに全市民が一致団結した記念の碑を刻みます」(オウム教を解散させる富士宮市民の会)と刻まれた石碑(団結の碑)が立っている。
事件の風化懸念、警戒続く
30年以上が過ぎ、教団と対峙した住民らは亡くなり、今年7月に井上さんも他界し、事件の風化も懸念される。ある県警幹部は「教団の残党は今もいる。近年は(組織に属さず1人で過激化する)ローン・オフェンダーの存在も脅威で、警戒が必要だ」と打ち明ける。
井上さんは生前、読売新聞の取材に応じ、「地域住民は恐怖の渦の中で暮らしたと思う。地域の人々が前を向いていけるようにしたい」とセンターに込めた思いを話していた。一連の教団の事件を捜査した元警視庁捜査2課長の金高理事長は「施設の役割は重要。社会の光となる盲導犬を育てていきたい」と語った。
新たな一歩を踏み出すユニット
1日には同センターで、共同訓練を修了した盲導犬と視覚障害者のユニット5組の出発式が行われ、5人はパートナーとの新たな一歩に心躍らせた。ラブラドルレトリバーの「ヨゾラ」(2歳)がパートナーになった静岡市清水区の小林未佳さん(38)は「ヨゾラと一緒に好きなアーティストのライブに行ってみたい。色々なところに行って思い出を作りたい」と笑顔を見せた。
地下鉄サリン事件は、オウム真理教の信者が1995年3月20日、東京の営団地下鉄(現在は東京メトロ)の車内に猛毒の神経ガス・サリンをまき、14人が死亡、6000人以上が負傷した事件。