東京地方裁判所は、声優の「声」が法的保護の対象となると認める初の司法判断を示した。著名人が客を引きつける力(顧客吸引力)を独占的に利用できる「パブリシティー権」で保護されると明示した。生成AI(人工知能)で声優らの声を容易に模倣できることから無断投稿が相次いでいる中で、意義は大きい。
津田健次郎さんがTikTok運営会社を提訴
人気声優の津田健次郎さんが、動画共有アプリ「TikTok」の運営会社に動画の削除を求めて訴えていた。訴状などによると、動画は都市伝説などをテーマに、生成AIで津田さんの声を無断で模倣したナレーションを付けていた。発信者は動画投稿で月50万~75万円の収益を得ていたという。
動画はすでに削除されたことから、東京地裁は請求を退けた。一方で「人の声は肖像と同様に個人の人格の象徴」とし、声が持つ「顧客吸引力」の利用を目的とした無断使用は「パブリシティー権の侵害に当たると解するのが相当」だと判示した。
判決の意義と法整備の課題
訴訟で損害賠償は求めておらず、津田さんの代理人弁護士は「当初の目的は達成した」とし、判決が声の権利保護に言及した点を評価した。
パブリシティー権は人気歌手「ピンク・レディー」の写真の無断使用を巡る平成24年の最高裁判決で認められた。しかし肖像と比べ、声を巡る違法性の線引きは曖昧だ。ネット上の投稿は削除要請してもいたちごっこで、訴訟を起こすにも限界がある。
法務省は今年8月に声の権利について解釈指針を公表し、法的保護の対象になると明確化した。声を容易に模倣できる生成AIサービスを有償で提供した場合、パブリシティー権侵害の連帯責任を負う可能性があると、事業者側の責任にも言及している。課題解決へ法制化の理解は得られるはずだ。
「声」だけにとどまらないAI模倣問題
「声」だけの問題ではない。AI生成の画像、映像の模倣による詐欺行為やフェイクニュース、有名人を模したわいせつディープフェイク、音楽、絵画、文章、記事の盗用など、枚挙にいとまがない。「声の権利」を保護対象と判断した東京地裁判決は、これらの事例に対処する指針となる。