トラウマ抱える当事者への取材、記者自身も傷つかないために 連載「記者が向き合うトラウマ」
トラウマ抱える当事者への取材、記者自身も傷つかないために

秋の新聞週間(10月15日から)に合わせ、デジタル版で連載「記者が向き合うトラウマ」を配信し、紙面にもダイジェスト版を掲載した。記者はしばしばトラウマを抱えた当事者に取材する。相手を傷つけず、記者自身もトラウマを負わないためにはどうすればいいのか。その課題に取り組む動きが広がっている。

性被害の男性への取材で気づいた自らの苦しさ

東京社会部の島崎周記者は、数年前に性被害を受けた男性を取材した際、自らが答えを必要としていると気づいた。男性は中学生の時に成人男性からレイプされたといい、聞くほどにやるせない思いがわき上がり、胸が苦しくなった。男性は「こんな話を聞かせてしまって大丈夫ですか?」「あなたは大丈夫なの?」と問いかけたという。

この数年、島崎記者は性暴力や虐待の被害者を多く取材してきた。精神的に不安定な相手から頻繁に連絡が来たり、突然途切れたり、「死にたい」と吐露されたこともあった。性暴力の専門家からも「あなた自身は大丈夫なの?」と聞かれ、初めて自分自身に目が向いた。当時は毎日のように性暴力の情報に触れ、緊張感があったという。

オーストラリアでの研修と社内での広がり

元朝日新聞記者の河原理子・東京大学大学院客員教授の誘いで、オーストラリアの「ダートセンターアジア太平洋支部(現在はアジア太平洋ジャーナリズム・トラウマセンター、CJT)」の研修に参加した。2025年8月、日本の新聞社やテレビ局、通信社などから記者ら有志13人が4日間の研修に参加。トラウマの基本知識や取材時の注意点、ストレス対処法を学んだ。CJT創設者のケイト・マクマーン博士は、健全なジャーナリズムのために記者をサポートする組織の仕組みが必要だと強調した。

帰国後、島崎記者は社内で研修会を開き、約70人が参加。強いニーズを感じたという。その後もCJTの講師を招いた管理職向け研修が開かれるなど、関心や理解が深まっている。河原さんらの有志研究会による実態調査も進められている。

当事者の声を社会につなぐために

一方で、社会からは「なぜトラウマを抱えた人に取材するのか」という問いが今後も突きつけられるだろう。どんな出来事にも当事者にしか分からないこと、語れないことがある。その声から社会で起きている問題の実態を深く知り、どう向き合うか考えるきっかけにできる。取材相手を傷つけず、取材者自身も傷つかない。記者がそのすべを学ぶことが、社会に貢献できる報道につながると信じている。