長崎市は今年度、開館30年を迎えた長崎原爆資料館の大規模な展示更新に取り組む。被爆者の高齢化や減少が進む一方で、国際情勢は緊迫化しており、被爆の実相を分かりやすく発信するのが狙いだ。世界初の核実験で使われた原子爆弾の実物大模型などを新たに設置し、来年3月の完成を目指す。
夜間工事で休館せずに実施
10日夜、来館者がいなくなった長崎原爆資料館では、作業員が床に養生シートを敷き、壁面に設置されていたモニターを取り外すなど、改装工事の準備を進めていた。この日始まった展示更新に向けた工事は夜間に実施され、休館せずに進められる。
市平和推進課の高橋亮平係長は「被爆者が減少する中、原爆の被害を今も起こりうる『自分ごと』として考えてもらえるような展示にしていきたい」と意気込みを語った。
実物大模型やCG、ARで体験型展示に
資料館は、旧資料館の長崎国際文化会館を建て替える形で、1996年4月にオープン。これまで大規模な展示更新は行われていない。市は時代の変化に対応させるため、被爆80年記念事業の一環で更新を計画し、2019年頃から構想を練り始め、今年3月に実施設計を取りまとめた。
展示更新では、世界初となる米国の「トリニティ・サイト」の核実験で使用された原子爆弾「ガジェット」の実物大模型を新設。QRコードを読み込むと、原爆のさく裂の仕組みがコンピューターグラフィックス(CG)映像で確認できるようにする。また、「実体験ができる展示がほしい」との若い世代などの声を受け、核実験の様子を3面映像とミラーを用いて没入体験できる小部屋や、長崎が原爆投下後どのように復興をたどったかを拡張現実(AR)やジオラマで伝える展示も設ける。
24年にノーベル平和賞を受賞し、今年で結成70年を迎えた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の取り組みも解説パネルで紹介する。
外国人入館者過去最多、多言語ガイド導入
近年は資料館を訪れる外国人は増加傾向にある。市平和推進課によると、日本人を含む入館者数は昨年度89万6400人で、開館以降4番目の多さだった。このうち、リーフレットの配布数を基に算出している外国人の入館者数は17万3950人で、統計を取り始めた02年度以降で最多となった。
展示更新後は、海外の入館者へはタブレットを用いて多言語での音声ガイドを実施。展示室の最後には「長崎を最後の被爆地に」とのメッセージも多言語で表示する。同課は「一人一人が身近なところから平和について考え、行動するきっかけをつくりたい」としている。概算事業費は約5億円。工事に伴い、一部の展示が見られなくなることもあるという。
市職員として資料館の開館業務に携わった被爆者の田崎昇さん(82)は「核兵器を取り巻く状況はこの30年で変わっている。被爆者が少なくなる中、最新の技術を用いて若い世代に被爆の実相をどう伝えていくかが大事になる」と強調する。
学芸員2人を新規採用、継承へ体制強化
資料館の展示更新に向け、市は2024年に学芸員2人を新規採用した。現在は嘱託職員を含め計6人が業務にあたっている。平和推進課で働く高倉大輔さん(39)は、大学で博物館学を学び、東京にある平和に関する資料館での勤務を経て、24年に入庁。現在は解説パネルの準備を進めている。「被爆者は戦後も終わることがない苦難にさいなまれてきた。そのつらさを伝える展示ができるよう取り組んでいる」と話す。
新規採用のもう1人は、被爆継承課の海老沢優紀さん(35)。以前から学芸員を志望し、約10年前から資料館の会計年度任用職員として勤務していた。展示更新の直接の担当ではないが、高齢化する被爆者への聞き取り調査や資料の追加調査を行っている。「被爆の実相を次の世代につないでいくため、コツコツと業務にあたりたい」と意気込む。



