1942年6月、日本海軍はミッドウェイ海戦で主力空母4隻を失い、太平洋戦争の転換点となる大敗を喫した。その敗因は「暗号を解読されたから」と語られることが多いが、戦史研究の第一人者である大木毅氏は、著書『ミッドウェイ海戦』(文春新書)で、本当の原因は日本側の作戦そのものにあると指摘している。
「目的」も「兵力」もバラバラだった
旧ユーゴスラヴィア出身でアメリカに亡命し、海軍士官となったミラン・ヴェゴ氏は、現在米海軍大学校で教授を務め、戦略・作戦理論を研究している。19世紀から20世紀にかけて米海軍の理論的支柱となったアルフレッド・マハンになぞらえられるほど注目されており、「現代のマハン」とも呼ばれている。
ヴェゴ氏は太平洋戦争の諸海戦にも注目し、研究書を著している。その中で、ミッドウェイ海戦の日本の作戦は「離心的」だったと批判している。目標が複数あって、兵力が遠心的に分散していくという意味で、まさにその通りだと大木氏は述べる。
ミッドウェイ島の占領、米機動部隊の撃滅、アリューシャン列島西部の攻略と、目的が3つもあって絞り込まれていない。さらに「兵力の節用」もできていないと指摘されている。
暗号解読が勝敗を分けたわけではない
ミッドウェイ島の占領と米機動部隊の撃滅を目指すなら、機動部隊と上陸部隊に艦砲射撃を行う支援部隊を付ける程度で十分なのに、はるか後ろを戦艦部隊までがついて行く。ミッドウェイ作戦では、主力部隊と称して戦艦を大挙出撃させていた。
作戦目的がはっきりしない上に、達成に必要な戦力についても考慮した形跡がないとヴェゴ氏は指摘する。大木氏は的を射た批判だと評価する一方、ミッドウェイの基地を叩いて米空母機動部隊を誘引し撃滅するという山本五十六の基本構想自体は間違っていなかったと述べる。目的と資源を集中していれば、日本側が勝者となる可能性は高かったという。
保有兵力の数だけを比べれば、日本側が優勢だった。イギリスの軍事史家ジョン・キーガンも『情報と戦争』(並木均訳、中央公論新社、2018年)で、アメリカが日本の暗号を解読し待ち伏せしていたから勝てたという説を否定。手の内を読まれていながら、米急降下爆撃隊の奇襲を受けるまで航空戦を優勢に進めていたではないかと主張している。



