経営難のため、今年3月にバス転換の方針が決定した平成筑豊鉄道について、福岡県は9月8日、鉄道の運行終了を2028年度末とする計画案を示した。しかし、自治体と鉄道・バス事業者は「準備期間が短すぎる」と指摘。目標時期は撤回され、見直されることになった。
福岡県が示したスケジュール案
平成筑豊鉄道は伊田線、糸田線、田川線の3路線で列車を運行している。「第11回平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会」において、福岡県は「今後の協議の進め方について」の中で、以下のように目標時期を提案した。
- 令和8(2026)年度 : 決定された路線バス案に基づき地域公共交通計画を作成
- 令和9(2027)年度 : 地域公共交通利便増進実施計画を作成。国の補助制度等を活用し、バス運行準備
- 令和10(2028)年度 : 地域公共交通利便増進実施計画を改定。国の補助制度等を活用し、バス運行準備
- 令和10(2028)年度中 : バス運行開始
- 令和10(2028)年度末 : 鉄道運行終了
このスケジュールは、2026年3月のバス転換決定前に進学を決めた高校生が、卒業するまでは鉄道で通学できるよう配慮したと考えられる。
鉄道事業法において、鉄道路線廃止の届出は廃止予定日の1年前とされているが、通学利用者が多い路線で「現在の高校1年生が卒業する月まで」という事例もある。たとえば、名鉄は2026年8月に広見線新可児~御嵩間の廃止届を提出し、廃止予定日を2029年4月1日とした。弘南鉄道も2024年に大鰐線の休止を決定し、2028年3月31日で運行終了、4月1日から運行休止とした。福岡県も同様の日程を見込んだと思われる。
自治体・事業者から「準備期間が短すぎる」と指摘
福岡県のスケジュール案に対して、田川市の都市計画課長は「まずバスルートが決定しておらず、ダイヤも決定していない。これからバス車両の購入も必要であり、営業所や車庫の整備も進めなければならない。何よりも運転手の確保が必須である」と懸念を示した。現時点では明確に決定している事項はとくになく、本当に実行可能なのかという疑問があった。
3年未満でバス路線の新規開設が可能かという問いに対し、平成筑豊鉄道の社長は自身のバス会社での勤務経験から「実質的な意思決定、訓練などを考慮すると、実務的な準備期間は2年程度、地区説明会、地元住民等の説明や調整、その準備に時間がかかり、概ね3年かかる」と説明。現在のスケジュールでは、運行に向けた実務調整を1年半で済ませる必要があり、きわめて困難とのことだった。
JR九州バスの常務取締役企画運輸部長は、「JR日田彦山線のBRTまで3年を要した」と説明。加えて、「事業主体がどこであるのか、また実際に運行する主体が具体的にどこになるのかが明確に決定されていないと、形式的な枠組みだけを構築しても実現は非常に困難」と述べた。
バス代替路線の策定に時間がかかることはわかった。ではなぜ、名鉄広見線や弘南鉄道大鰐線は廃止・休止までの期間を3年程度に設定できたのか。名鉄広見線の場合、鉄道路線を挟む形で北に国道、南に国道バイパス道路があり、代行バスのルートを想定できたと考えられる。弘南鉄道大鰐線の場合、弘南バスの既存路線のルート変更で対応できる見通しがあったかもしれない。平成筑豊鉄道はどちらもこれからとなる。
国土交通省九州運輸局の首席運輸企画専門官は、「実施主体が確定していなければ、例えば交通空白地帯解消のための補助金の申請すら行うことができない」とし、来年3月までに必要金額を算出すべきで、いますぐ叩き台を提示しなければ間に合わないと説明した。バス転換にあたり、事業者を誰が決定するか、協議会が実施主体となるか、別の場になるかも明確ではなく、「いつ、誰が、なにを決定するか、ロードマップを示してほしい」と助言した。
行橋市の都市政策課長、直方市の都市計画課長も、日程の実現性に疑問を呈した。行橋市の都市政策課長は、「利用者が知りたい、路線バスの運行体系や時刻表などの具体的な内容をどのタイミングで検討・決定していくのかが不明」、直方市の都市計画課長はバス転換費用の試算について、「社会資本整備総合交付金を活用する方針で進めていたはずが、交通空白に関連する補助金等を使うという経緯の説明がない」と、県からの説明不足を指摘した。
沿線自治体にとって、福岡県の提案は地域の事情を考慮せず、「高校生が卒業できる時期」というゴールから逆算しただけのように見えたかもしれない。ちなみに、発言した自治体は田川市、行橋市、直方市であり、田川市が最も積極的だった。
「平成筑豊鉄道のあり方に係る大きな方向性」の決議において、田川市と直方市は「BRT」、行橋市は「路線バス」を支持している。決議結果は「路線バス」であり、田川市の意向とは異なる。決議後の7月に就任した田川市の新市長は、8月20日付の朝日新聞のインタビュー記事で鉄道の存続を望み、「残したいというのが正直な気持ち」「決定を変えられる余地があるのではと思っている」と語った。
この件が念頭にあったのか、福岡県市町村・地域振興部の交通政策課長から、田川市の都市計画課長に対し、「市町村の担当者として参加されている立場であり、決定されたスケジュールに向けて検討を進める上でも協力される立場ということで間違いないか」と質す場面もあった。田川市の都市計画課長は、「もちろんそのつもり」と答えた上で、決定が遅ければ市町村の負担も増えるとし、「ゴールが決定すると遅延が許されない」と懸念している。設定された期限に間に合わない場合に、市町村の負担が増えるからである。
新たな交通ネットワークの目標値と課題
議事は「地域公共交通計画(骨子)」に進み、バスによる新たな交通ネットワークについて、2031年度の目標値として「利用者数合計73万人以上」「市町村負担額は800万円以下から2,700万円以下」「収支率25%以上」「運転手充足率100%以上」とした。また、目標達成のための事業として、交通分野と地域連携で23項目を挙げた。
自治体からの意見として、ルートやダイヤの説明がないまま目標値だけでパブリックコメントを実施することについての疑問が提示された。沿線市町村負担額を30年間積み上げると110億円に達することについて、福岡運輸支局から「各自治体が協議を行い、自らの財政負担はこれくらいの規模に抑えなければ維持できないといった議論が行われた上で決定されるべき」で、議論の積み重ねが必要不可欠、つまり議論が足りないとの見解を示した。
バスの運行形態は、道路運送法4条に規定される一般旅客自動車運送事業、いわゆる路線バスを原則と理解しつつ、同78条による自家用有償旅客輸送の検討を進める。78条は市町村やNPO法人らが行う「自家用有償旅客運送」を規定している。交通空白地域における住民の移動手段を確保する制度でもある。自治体としては路線バスが望ましいものの、福岡県内外の交通事業者9社に聞き取りを行った結果、積極的な事業者はなかった。採算面で自治体の協力があったとしても、乗務員不足と現乗務員の高齢化が解決できていない。現実的には、交通事業者は参加しにくく、コミュニティバス等の移動手段にせざるをえない。
いずれにしても、大元のスケジュール案が確定せず、利用者の動向や希望するダイヤを示さなければ、パブリックコメントを実施しても意味がない。新たな交通計画もスケジュールの確定から始める必要があるし、まず「誰が主体的に進めるか」を決める必要がある。今回の議事概要からは、主体となるべく手を上げる参加者がいないように見える。鉄道廃止を決めただけ。筆者には「次の交通計画は他の誰かにしたい」と見える。
住民による署名運動と今後の見通し
一方、沿線住民からも、平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会によるバス転換の決定に「利用者の意見が反映されていない」として、再検証を求める署名運動が起きた。2026年6月に発足した「平成筑豊鉄道を考える会」は、7月から署名運動を始めた。「鉄道廃止反対」ではなく、「平成筑豊鉄道に関する協議過程の再検証と住民説明を求める」署名運動である。
この平成筑豊鉄道の法定協議会の「平成筑豊鉄道のあり方に係る大きな方向性」の書面決議に至る過程について、多くの住民から「十分な説明がなされていない」「他の選択肢の検討状況が見えない」「将来の地域への影響が明確でない」といった声があがりました。特に、法定協議会に参加した国や県の委員がこの書面決議に際して棄権したことについても、住民の間で様々な疑問や不安が生じました。
このようなことを受けて、平成筑豊鉄道の沿線住民と利用者によって2026年6月、「平成筑豊鉄道を考える会」を結成するに至り、署名活動を開始することになりました。(出典 : 「平成筑豊鉄道を考える会」note)
平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会の議事概要は福岡県の公式サイトで公開され、当記事もその情報をもとにしている。ただし、これはあくまで議事概要であり、沿線住民へ丁寧に説明したとはいえない。議事概要にあるように、そもそもパブリックコメントを出せるような、バスのルート案やダイヤ案が決まっていない。
「平成筑豊鉄道を考える会」は、とくに「法定協議会に参加した国や県の委員がこの書面決議に際して棄権した」を問題視している。書面決議の内容は以下の通りとなる。
- 「BRT」(4票) : 直方市、田川市、学識経験者1名、交通事業者1名
- 「路線バス」(8票) : 行橋市、小竹町、香春町、糸田町、赤村、学識経験者1名、交通事業者2名
- 「鉄道(上下分離)」(2票) : 福智町、みやこ町
- 「棄権」(12票) : 国土交通省3名、福岡県県警交通部、福岡県6名(座長除く全員)、交通事業者2名
国(国土交通省)の棄権は、「市町村の決定に従う立場で決定後は支援する」という姿勢の現れだと思われる。交通事業者各社の投票は非公開だった。投票が利益誘導と見られかねないので、これも仕方ない。しかし、投票した福岡県関係者が全員棄権したことに関して、筆者は残念に思う。市町村をまたがる地域の問題について、県は明確な姿勢を示し、リードすべきではないか。
書面決定の最多票は「路線バス」と報じられたが、事実上の最多票は「棄権」の12票であり、全投票数26票のうち4割以上が「棄権」だった。「棄権」を除いた委員の過半数で決定するルールとはいえ、約3割の票だけで決めていいのか。疑問が残る。
毎日新聞電子版の9月13日付の記事によると、署名は速報値で1万9,702筆だという。この署名はオンラインも対応しており、これまでに2,000筆以上集まっているとのことだが、沿線住民以外の人や鉄道ファンなどもここに含まれていそうだから、行政への圧力は低いかもしれない。一方、「平成筑豊鉄道を考える会」のnoteでは、沿線企業と店舗から141筆が寄せられており、こちらは行政にとって見過ごせないだろう。
「第11回平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会」の議事概要でも、田川市が署名活動に触れている。「平成筑豊鉄道を考える会」が平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会について開示請求を行ったが、黒塗りばかりだったという事実について、「本協議会の場において、このような黒塗りで隠すような議論を行ってきたという認識はないが、一体どのような資料が請求され、どのような理由で黒塗り部分を非開示としたのか」と説明を求める場面があった。
前述の通り、田川市の新市長は鉄道存続に関心を寄せており、過去の議事概要を見ると、「BRT」「路線バス」の意向も「補助金に予算を割けず仕方なく」という感情を読み取れる。筆者の予想として、今後は「コミュニティバスへ転換」に進むのではないかと考えているが、議事概要を見る限り、公共交通の課題を凝縮したような流れになっている。自治体をまたがるローカル線は、維持もバス転換も難しい。予算もリーダーもいない協議会は、他の地域の手本になるような解決にたどり着けるだろうか。
本心は鉄道を存続させたい。ならば支援の枠組みを考えたほうがいい。鉄道を諦めるなら、前向きに、バスでもっと便利な公共交通を手に入れる。そこから議論をやり直したほうが良いかもしれない。