声優の津田健次郎さんが、生成AI(人工知能)で自身の声を模倣した動画を無断で公開されたとして、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の運営会社に動画の削除を求めた訴訟で、東京地裁が9月30日に判決を言い渡す。日本では法律に明記されていない「声の権利」のあり方について、裁判所がどのような判断を示すのかが焦点となる。
AIで声を模倣した動画、188件以上が投稿される
訴状によると、問題の動画アカウントは2024年7月以降、津田さんの声を模したナレーションを使い、都市伝説や心霊現象を紹介する内容の動画を少なくとも188件投稿。提訴された2025年11月時点で、21万人以上のフォロワーがいた。
津田さん側は裁判で、一連の動画は津田さん本人がナレーションをしているかのように混同させるもので、有名ブランドなどの無断利用や便乗を禁じる不正競争防止法に違反するなどと主張してきた。
TikTok側は「本人の声ではない」と反論
被告のティックトック側は、動画のナレーションは第三者の声がAIで加工されたもので、津田さん本人の声が使われたわけではないと反論。ユーザーが本人の声と混同する恐れもないとし、請求を退けるよう求めた。
審理が続いていた2025年5月29日、動画の投稿者がアカウント自体を削除した。このためティックトック側は、動画の削除を裁判で争う必要はなくなったとして速やかに請求を退けるよう主張した。だが、津田さん側は「動画データが完全に消えたかどうか外部から検証ができず、再表示される可能性もある」として、裁判所による削除命令が必要だと改めて訴えた。
「声の権利」をめぐる法的な議論
近年、生成AIの発展と普及により、著名人の声を模倣したコンテンツの作成が容易になった。2024年には、山寺宏一さんら声優の有志が「NOMORE無断生成AI」キャンペーンを始めた。
そもそも日本では「声の権利」が法律に明記されていない。このため著名人の声そのものや声質は著作権の保護対象とはされてこなかった。
名前や容姿をめぐっては、2012年の最高裁判決が、人格権に基づいて「みだりに利用されない権利」があると判断。名前や容姿などに顧客を引きつける力がある著名人については「パブリシティー権」があると認めた。
声についても、同様に「パブリシティー権の対象になる」との見解が研究者らの間では広がっていた一方、法律上は明記されないままで、裁判で争われる例もほとんどなかった。2025年8月には、法務省の検討会が2012年の最高裁判決の考え方を踏まえて「声の権利」も法的な保護対象になる、とする報告書を公表している。