兵庫県太子町で60年以上にわたり能面などを作り続けている三輪工雲(本名・工)さん(97)。太平洋戦争時は航空機の整備兵を目指していたが、力が弱くなったこともあり、5年ほど前からはブローチなどの小さな面を作り、裏面に「天下泰平」と書き入れている。戦争のない世の中を願っての制作だ。
旧海軍での経験と能面制作の始まり
三輪さんは揖保郡石海村(現・太子町)出身。国民学校を卒業し、造船関係の学校を経て1944年に旧海軍に入隊した。長崎県や神奈川県で航空機の整備を学んでいたが、整備兵になることはなく、そのまま終戦を迎えた。
祖母の実家が龍野藩の宮大工だったといい、地元に戻ってからは農業の傍ら大工になった。当時、大工が建物の棟上げ式や落成式を能の謡で祝うことから、20歳で謡曲を習い始めた。
一心不乱に打ち続けた能面
能面師に師事し、63年からは能面を打ち始めた。材料はヒノキ。大工なので下地を作るのは難なくこなしたが、仕上げで胡粉と膠を混ぜて面に塗ったり、筆で髪の毛や眉毛などを描いたりすることに苦戦した。
自宅の作業場で一心不乱に制作してきた。「やればやるほど難しい」と話す。能面を贈ると喜ばれ、舞台で使われることもある。「人のために役立っていることが何よりうれしい」と言う。74歳で大病を患い手術をしてからは、いっそう能面作りに熱が入った。
平和への願いを込めた小さな面
これまで1000面以上作ってきたといい、完成した能面は新築した家に贈ったり、伊勢神宮や靖国神社などに奉納したりしてきた。
縦5センチ、横3.5センチほどの小型の面は、赤松などを使って制作。つけネクタイ用の飾りなどとしても使える。販売はせず、友人らにプレゼントしている。
世界各地で起きている戦争が終結してほしいとの願いを込め、丁寧に天下泰平の文字を書き、面を完成させている。太平洋戦争時、甲高い金属音を鳴らして近づいてきた米軍の戦闘機グラマンから機銃掃射を受けたことを今も思い出す。「世の中は平和が一番。年も年やけど、できる限り作りたい」と決意している。