毎日きっちり8時間の睡眠時間を確保したり、マットレスを新調したり、睡眠スコアを欠かさずチェックしたりと、快眠のためにあらゆることを試してきた人でも、最も大切なポイントのひとつを見落としている可能性がある。そのポイントとは、就寝時間と起床時間を一定に保つことだ。もちろん、睡眠の長さも重要だ。しかし、たとえ7~9時間という理想的な範囲内に収まっていたとしても、就寝時間や起床時間が常に変動しているなら、自分が思っているほど十分に休息できていないかもしれない。
睡眠リズムの乱れが体に及ぼす影響
ハーバード大学医学部の睡眠医学臨床研究者であり准教授であるエリック・ジョウ(PhD)は、就寝と起床の時間を一定に保つことは十分な睡眠をとることに匹敵するほど重要であり、場合によってはそれ以上かもしれないと述べている。体は、今が何時なのかを把握しながら、一定のリズムに従って機能している。
睡眠・肥満医学の認定医であり、メアリー・ワシントン・ヘルスケアの睡眠医学医療部長を務めるM・タルジュ・アリ(MD)は、「体内には概日リズムを刻む体内時計があり、血圧や糖代謝、ホルモンの分泌、さらには自律神経の働きまで調節しています」と話す。「就寝時刻と起床時刻が頻繁に変わると、こうした身体のシステムは、本来の体内リズムに合わないタイミングで繰り返し働くことを余儀なくされます」
その影響は、単に疲労を感じるだけにとどまらない。アリによれば、体内時計の乱れが続くと、その影響は全身に及ぶ可能性があるという。たとえば、炎症の増加や、心血管や代謝に関わる健康状態が悪化することなどが考えられる。この概日リズムの乱れは、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」とも呼ばれ、寝室から一歩も出ていないのに、まるで長距離フライトを終えたばかりのような感覚に陥ることもある。
「何時間も眠ったはずなのに、目覚めたときにはまだ疲れが残っていて、頭がぼんやりした気分になることがあります。それは、睡眠のタイミングが変わることで、体内時計が大きく乱されるためです」とジョウは説明する。
体がスケジュールの変更を嫌う証拠のひとつに、サマータイムがある。サマータイムを採用している国や地域では、毎年春に時計を1時間進めた後の数日間、一時的に心臓発作や入院が増加することが研究で報告されている。しかも、これは年に一度のたった1時間のずれによる影響に過ぎず、毎日の積み重ねによるものではない。
研究結果が示すこと
睡眠スケジュールが乱れていると、寝起きに頭がぼんやりしたり、すっきりしないことがある。しかし、それは気になる問題のほんの一部だ。イギリスの成人6万人以上を対象に行われた2024年の研究では、睡眠の規則性が高い人ほど、全死因による死亡リスクが最大48%、がんによる死亡リスクが39%、心血管疾患や代謝性疾患による死亡リスクが57%低いことが示された。
さらに、2025年に発表された59件の研究を分析したレビューでは、睡眠時間帯の不規則さが、うつ病や不安障害をはじめ、体格指数(BMI)の増加、インスリン抵抗性、高血圧、心血管イベントのリスク上昇と関連していることがわかった。加えて、認知症のリスクが26〜53%高まることも報告されている。また、イギリスで行われた別の大規模研究では、睡眠の時間帯が不規則な人は、毎日7時間以上寝ていても、2型糖尿病を発症するリスクが高いことが示された。
一方、2025年に日本で行われた研究では、睡眠の規則性が高い人ほど認知機能が高く、神経可塑性やメンタルヘルスを支えるタンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)のレベルが高いという結果が出ている。
こうした研究のほとんどは観察研究であるため、睡眠スケジュールを一定に保てば、病気や死亡のリスクを確実に減らせると断言できるわけではない。「とはいえ、その傾向は驚くほど一貫しており、その証拠には十分に説得力があるため、“規則正しさ“は健康的な睡眠の柱のひとつとして考慮されるべきです」とアリは述べている。
睡眠スケジュールをより規則正しくするためには
就寝・起床時刻を一定に保つことが、それほど難しくない人もいるだろう。しかし、夜型の人や不眠に悩んでいる人、勤務時間が不規則な人にとって、スケジュールを守るのは口で言うほど簡単ではない。何かひとつ変えるなら、毎日同じ時刻に起きるといいだろう。いつ眠りに落ちるかをコントロールするよりも、起床時刻を一定に保つほうが、自分で調整しやすいからだ。しかも、その効果は想像以上に大きい。
「多くの人は、夜10時や11時ちょうどに寝ようとすることにこだわりがちです。しかし、朝の起床時間を一定にするほうが、睡眠スケジュール全体を整えるうえで、はるかに効果的な場合が多いのです」とアリは話す。ジョウも、毎朝同じ時間に起きることで概日リズムが整い、夜に眠気を感じるタイミングも定まりやすくなると付け加える。まずは朝のリズムを整えることで、夜の睡眠リズムも自然と整い始めるはずだ。
このほかにも、朝の光を浴びることも習慣にするといいだろう。体内時計の働きがいっそう強化され、睡眠リズムを整える助けになる。
では、睡眠スケジュールはどの程度までずれてもよいのか? 週末はどうすればよいのだろう? 「たまに夜更かしをする程度なら、体は対応できます。注意したいのは、自分が毎日どのタイムゾーンで暮らしているのか、体がわからなくなるような状態です」とアリは話す。アリが目安として勧めるのは、就寝・起床時刻のずれを最大でも1時間以内に抑えることだ。その差が日常的に2時間を超えると、心血管疾患のリスクが高まることが指摘されている。
ただし、慢性的な睡眠不足に陥っている場合は、週末に睡眠を補うことが健康によい影響をもたらすこともある。とはいえ、寝だめのし過ぎには注意が必要だ。
睡眠の質を改善する方法には様々なものがあるが、最も効果的なひとつは、単にスケジュールを守るという、最もシンプルなことなのかもしれない。