ここ最近、「変な咳をしている人が増えた」「熱はないのに咳だけがずっと治らない」という声が聞かれる。単なる風邪の残りだと放置していると、実はまったく別の疾患が隠れていることもある。長引く「謎の咳」の正体とは?考えられる原因の疾患や受診の目安について、クリニックフォアの内科医・渥美義大先生に聞いた。
感染後咳嗽は1〜2ヵ月続くことも
「風邪やインフルエンザ・新型コロナなどの感染症にかかった後、咳だけが残る」という状態は、医学的には「感染後咳嗽」という病名がついているほど、ごく当たり前に起こることだという。渥美先生は「皆さんが思っている以上にこの咳は長引くもので、長い人だと1〜2ヵ月続くことも珍しくありません」と話す。
風邪という明確なきっかけがあり、生活に大きな支障がなければ、3週間程度までは様子を見ても問題はないとされる。ただ、熱が続く、息苦しさや胸の痛みがあるなど他の症状もある場合は、3週間を待たずに受診してほしいという。感染後咳嗽は、薬を使ってもなかなか効かないことが多いのも特徴の一つだ。
厚労省が啓発する「肺NTM症」とは
今年から厚生労働省が9月24日から30日を「非結核性抗酸菌症(NTM症)啓発週間」と制定した。肺NTM症は、水回りや土壌などに存在する「非結核性抗酸菌」が肺に感染して起こる病気だ。結核とは異なり人から人へ感染することはないが、近年、特に中高年女性を中心に患者数が増加しているとされ、啓発週間が設けられた。
今年の標語は「長引く咳にNTM症という視点を」。菌が身の回りの水場や土に潜んでいるため、ガーデニング時のマスク着用や、浴室のシャワーヘッド・ぬめりのこまめな清掃・乾燥が予防に役立つ。一般的な風邪薬や抗菌薬では改善しにくいため、咳や痰が何ヵ月も続く場合は放置せず、受診して相談することが勧められる。
咳ぜんそくと気管支ぜんそくの違い
咳ぜんそくは、コホンコホンという乾いた咳が出るのが特徴だ。気管支ぜんそくのように、呼吸をする時に「ヒューヒュー」と音が鳴る喘鳴状態にはならない。喘息の治療でも使われる気管支を広げる吸入薬が効果的とされ、それを使って症状が治まれば咳ぜんそくだったと判断する目安にもなる。
咳ぜんそくを何度も繰り返す方は、報告によって差はあるものの、数年内に3割程度が本格的な「気管支ぜんそく」に移行してしまう可能性があると言われている。そのため、症状が出た時だけ一時的に薬を飲むのではなく、気道の炎症を抑える吸入薬(吸入ステロイド)を使って症状が出ないようにコントロールする治療を継続することが望ましい。
マイコプラズマやアレルギー、胃酸逆流も原因に
通称「歩く肺炎」と言われるマイコプラズマ肺炎は、比較的元気に動けてしまうのに感染力があるのが特徴で、2024年に過去最大級の流行を記録して以降、2025〜2026年も平年より高い水準が継続している。学童・若年層に多いが、近年は成人の感染も目立つ。乾いた咳が長く続き、市販の風邪薬があまり効かない場合は候補の一つだ。百日咳は2025年に記録的流行があったが、今年は前年同期の1割程度まで減少している。
「アトピー咳嗽」は秋の花粉や家の中のハウスダスト、ペットなど何かしらのアレルギー刺激によって咳が出るもので、アレルギー用の薬で効果が期待できる。ご自身にアトピー性皮膚炎などの自覚が全くなくても起こることがあり、注意が必要だ。ほかに、鼻水が喉の奥に垂れ込む「後鼻漏」や、胃酸が逆流する「逆流性食道炎」が咳の原因になることもある。後鼻漏は横になった時に鼻水が垂れ込むため就寝時に咳が出やすく、逆流性食道炎の場合は胸やけなどの症状を伴うことが多い。
咳の引き金になりやすい日常の行動や環境としては、秋特有の「寒暖差」や「空気の乾燥」、運動、会話、香水や柔軟剤などの芳香成分、たばこの煙、お風呂上がりの湯気、暖かい部屋から寒い屋外に出た時のような急激な温度差が挙げられる。
咳がつらくて眠れない時のケアとして、まずは加湿が非常に大事だという。後鼻漏や逆流性食道炎の気がある方は、寝る時に枕を高くして頭を上げ、体がフラットにならないようにすると咳が出にくくなる。温かい飲み物も良く、ハチミツには咳止めの作用があるという医学的なエビデンスがあるため、ティースプーンで少し舐めるなどの方法は有効だ。ただし、1歳未満の乳児は腸内環境が未熟で、ハチミツに含まれる菌によって乳児ボツリヌス症を起こすリスクがあるため、絶対に与えないよう注意が必要だ。
受診の目安は「3週間」
一般的な風邪の症状としての咳であれば基本的には1〜2週間で治まるが、「遷延性咳嗽」と判断する一つの定義は「3週間」を超えたあたりからになる。咳が3週間ほど続いて困るようであれば、咳ぜんそくやアレルギーの他にも、肺炎や結核、年齢や喫煙歴によっては肺がんといった病気が隠れている可能性も考えられる。
ただし「3週間」はあくまで一つの目安で、息苦しさや高熱、体重減少といった症状を伴う場合はその限りではない。心配なときは、3週間を待たずに医療機関に相談してほしい。