腹痛や下痢などが続く「炎症性腸疾患(IBD)」は、国内に推計40万人の患者がいる。患者は増加傾向にあるが、根本的な治療法はまだない。先月、大阪市内で患者らが集う交流会が開かれ、日常生活での悩みなどについて話し合われた。(辻田秀樹)
自己免疫疾患とされるIBD
IBDには主に、大腸の粘膜がただれる「潰瘍性大腸炎」と、口から肛門まで広い部位で炎症が起こる「クローン病」の二つがある。体内に入った病原体を排除する免疫が過剰に働き、消化管を攻撃する「自己免疫疾患」と考えられている。
免疫が異常を起こす要因は分かっておらず、それぞれの病気は、国の指定難病となっている。安倍晋三・元首相は2020年に辞任した際、持病の潰瘍性大腸炎の悪化を理由に挙げた。
厚生労働省の研究班が23年に実施した全国調査によると、推計患者数は潰瘍性大腸炎が31万7000人で、クローン病が9万6000人。いずれも15年調査時の約1.4倍になった。
交流会で患者が悩みを告白
外見上、病気を患っていることは分からないため、周囲の理解を得るのが難しい。発症時のピークは10~20歳代で、進学や就職で悩む人も少なくない。先月13日に開かれた交流会には、患者や専門医ら約50人が集まった。職業や年齢などが異なる患者らが、それぞれの立場で、ふだん困っていることなどを語り合った。
参加した大阪府の大学生の女性(20)は「急に切迫した便意に襲われることがあるため、外出先では必ずトイレの場所を確認するようにしている」と言う。
高校1年生だった21年秋ごろから、おなかの痛みや不快感、嘔吐などに悩まされてきた。トイレに行く回数も増え、医療機関を受診したが、診断はつかなかった。
大学生になっても症状は続いた。受診先で血液検査を受けると、体に炎症が起きていることを示す数値が高く、紹介先の医療機関に緊急入院。腸の状態が悪いことが判明し、小腸と大腸の一部を切除する手術を受けた。その後の検査でクローン病と診断された。「長い間、病名が分からなかったので、診断されて『納得した』という思いもあった」と振り返る。
薬を服用するなどし、胃痛や嘔吐は治まったが、1日に何度も便意がある。脂っこい食事は症状を悪化させるとされ、鶏のささみなど、脂身が少ない食材を選ぶようにしている。だが、友人らと食事や旅行に行く時は、そうもいかない。周囲と同じものを口にし、体調を崩してしまうこともある。
アンケートで見えた「つらい」実態
女性は現在、大学3年生。これから就職活動が本格的に始まる。「食事に少し制限があることや、トイレに行く回数が多いことなどは、理解してもらいたいと思っている」と話す。
交流会を主催した一般社団法人「IBD患者さんの日常生活を彩る会」(東京)は、交流会に参加を申し込んだ患者や家族ら約50人に、日常生活に関するアンケートを実施した。当てはまる項目を三つまで答えてもらったところ、特につらいと感じることは、「便意切迫感」と「トイレの不安」がそれぞれ23人、「周囲への病気の説明の難しさ」が17人と多かった。
具体的には「長時間の外出ではオムツをしているが、夏場は暑く困難」、「他の人に病気のことをどこまで話せばいいのか分からない」、「食事を存分に楽しめない」など、経験に基づく切実な訴えが寄せられた。アンケートを分析した大阪回生病院(大阪市淀川区)IBDセンター長の中村志郎さん(67)は、「結果を真摯に受け止め、診療に当たりたい」と話している。
治療薬の選択肢広がる
IBDは、「5―ASA製剤」と呼ばれる治療薬で、腸の炎症を抑えるのが一般的だ。液体状の栄養剤を使って腸を休ませることもある。悪化した場合は、ステロイドで強力に炎症を鎮める。ひどくなると、手術をせざるをえないケースもある。
2000年頃からは、新薬が次々と登場し、治療の選択肢が広がった。免疫異常を引き起こす物質や、炎症に関わる物質を抑制する「生物学的製剤」、「JAK阻害薬」といった新しいタイプの薬も使えるようになり、症状を抑えられる人は増えた。
IBDの患者を長年診てきた、彩る会代表理事で慶応大名誉教授の日比紀文さん(79)は「治療薬の選択肢が増えた今は、どういった患者さんにどの薬を使うのが適切かを研究することが重要になった」と指摘する。その上で、「これからは治せる病気となるよう、さらに研究をしていく必要がある」と話している。