密約説を丁寧に否定、日本の核抑止の歴史を読み解く『米国の核と日本の抑止』書評
密約説を否定、日本の核抑止の歴史を読み解く書評

非核三原則のうち「持ち込ませず」原則の見直し論が唱えられる中、米国の核と日本の抑止の歴史を丹念に検証した一冊が注目を集めている。外務省で「密約」問題調査に関わった北野充氏による『米国の核と日本の抑止』(千倉書房・6600円)は、膨大な史料を渉猟し、1960年安保改定時の密約説を説得的に否定する。

60年密約説の真相に迫る

米国の核搭載艦船の日本への一時寄港は、日米安保条約に基づく事前協議の対象となる。しかし、1960年の安保改定時に、一時寄港を事前協議の対象外とする米側の立場を認めた密約が存在したのではないかとの疑惑が長年指摘されてきた。

2009年に民主党政権下で設置された「密約」問題調査有識者委員会報告書は、狭義の密約はなかったが、日米間の認識の不一致を詰めなかったと結論づけた。これに対し、当時から合意は存在したとの見解も残る中、著者は史料から密約説を否定する。

米側の対応が示す真実

著者は、一時寄港を事前協議の対象とする日本政府の国会答弁に対し、米側が当初静観していた事実に注目する。もし密約が存在したなら、米側はそれに基づいて反論したはずだ。実際、米側はその後、60年当時の交渉を調査し、合意はなかったとの前提で問題を処理するようになったことが史料から裏づけられるという。

また、駐日大使として知られるエドウィン・ライシャワーが、この問題にさまざまな混乱をもたらした可能性も示唆されている。

核の要素が希薄だった日米同盟

本書は、これまで日本が持ち込み問題にこだわる一方、米国の核戦略をほとんど自分事とみなしてこなかったと指摘する。つまり日米同盟は「核の要素が希薄な同盟関係」だったというのだ。

しかし、周辺国による核戦力増強という現実を前に、日本はこれまでとまったく同じ姿勢ではいられない。そうした変化の中で、本書を通じて米国の核への日本の向き合い方の歴史について理解が深まる意義は大きい。