京都の観光地で見られる激しい混雑や、一部の観光客のマナーの悪さを巡り、ネットやSNSでは「中国人観光客」を非難する声が多く見られた。そうした見方が広がったため、日中関係の政治的な対立が起きるたびに、「中国人は日本から出ていけ」「国交断絶をお願いします」といった一部の人々の過激な主張につながってきたのは、周知の事実だ。しかし、実際には京都の混雑の原因は中国人観光客だけではなかったことが、データ分析によって明らかになっている。
誤解の実態:中国人観光客の減少は全体にわずかな影響
コロナ禍の落ち込みからの回復過程で、インバウンド需要が急増し、日本全体の観光業界は活況を取り戻している。特に京都は、国内外から多くの観光客が訪れる人気の観光地だが、その混雑ぶりは「オーバーツーリズム」として問題視されてきた。そうした中で、ターゲットにされがちだったのが「中国人観光客」だった。
しかし、京都観光協会のDMO戦略・マーケティング担当課長の三田村康代さんは、AERA(朝日新聞出版)の取材に対し、中国人観光客の減少が京都の外国人観光客全体の増加に与えた影響はわずか数パーセントに留まると述べている。「中国人観光客の減少が京都の外国人観光客全体の増加に与えた影響を計算してみると、わずか数パーセントの減少に留まることが分かりました。実は、もともと京都を訪れる中国人観光客はそれほど多くなかったのです」(AERA DIGITAL 2026年6月14日)。つまり、京都の人々が「あいつらが来なければ」と批判的な目を向けていた相手は、大半が台湾、韓国、東南アジアからの観光客、あるいは中国人観光客と誤解されるような振る舞いをする一部の日本人観光客だった可能性もあるのだ。
スピンコントロールとは何か:情報操作の手法
このような「誤解」は世界各地で起きている。数年前、米国で「中国バッシング」のムードが高まり、街中で中国系住民が標的にされるなどの被害が起きた際、日本人も「このチャイナめ」といきなり絡まれる被害があった。我々が街中でアジア人を見かけても国籍までは分からないように、東アジア系の人々の中から「中国人」だけを見分けることは難しい。
では、なぜ我々は京都の混雑を、実際にはそれほど多くなかった「中国人観光客」と安易に結び付けてしまったのか。筆者は、「恐怖を感じるほど多くの人が訪れ、振る舞いもいい加減なので腹が立つ」という感覚が影響している面も大きいと考えている。なぜなら、我々日本人も同じような理由で、さまざまな国で「非人扱い」された過去があるからだ。
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かせない。本連載では、我々が普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、巧妙な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていく。
データが示す真実:京都の混雑の原因は何か
データを基に、中国人観光客の減少について分析した京都観光協会の三田村課長は、さらにこう続ける。「中国人観光客の減少が京都の外国人観光客全体の増加に与えた影響を計算してみると、わずか数パーセントの減少に留まることが分かりました。実は、もともと京都を訪れる中国人観光客はそれほど多くなかったのです」。この発言は、多くの人が抱いていた「中国人観光客が京都を壊している」というイメージが、実際のデータとは乖離していることを示している。
実際、京都を訪れる外国人観光客の内訳を見ると、台湾、韓国、東南アジアからの観光客が多くを占めており、中国人観光客の割合は決して高くない。にもかかわらず、なぜ中国人観光客が集中的に批判の対象となったのか。そこには、メディアやSNSでの情報の偏り、いわゆる「スピン」が働いていた可能性が指摘できる。
誤解が生まれる心理:認知バイアスと恐怖感
筆者は、この誤解の背景には、「恐怖を感じるほど多くの人が訪れ、振る舞いもいい加減なので腹が立つ」という感覚が影響している面も大きいと考えている。つまり、混雑自体に対するストレスや不満が、特定の国籍の観光客に向けられやすいという認知バイアスが働いたのだ。これは、日本人が海外で「非人扱い」された経験とも通じるものがある。
例えば、1980年代の日本のバブル期には、日本人観光客が海外で「ジャパニーズ・ツーリスト」としてマナーの悪さを指摘され、批判の対象となった。このように、観光客のマナー問題は特定の国籍に帰属されやすい傾向があるが、実際には個人差が大きく、国籍だけで判断するのは危険だ。
まとめ:正しい情報と冷静な議論の重要性
京都の混雑問題は、単に「中国人観光客が悪い」という単純なものではなく、観光客全体の増加、インフラの整備不足、観光資源の集中など、複合的な要因によるものだ。誤った情報や偏見に基づいた議論は、日中関係の悪化を招くだけでなく、京都の観光政策にも悪影響を及ぼす可能性がある。今後は、データに基づいた冷静な議論と、持続可能な観光のための施策が求められる。



