高市首相が掲げる「強く豊かな日本」投資枠に基づく財政運営について、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授は、内閣府の試算が経済成長と財政の持続可能性の両立を過度に楽観視していると警鐘を鳴らす。特に、成長戦略実現ケース①で想定される金利がわずかに上昇しただけで、国・地方の公債等残高対GDP比が反転上昇する可能性を指摘している。
つなぎ国債の発行と金利上昇リスク
成長戦略実現ケース①では、危機管理投資・成長投資のための「新たな投資枠」の一部を、将来の償還財源が確保された「つなぎ国債」で賄うとしている。しかし、このつなぎ国債は財政赤字として計上されていない国債の増発であり、金利上昇圧力となる。土居教授は、内閣府の試算が想定する金利よりも0.5%または1%上昇した場合のシミュレーションを実施した。
「市場金利が上昇しても、予算制約式上の金利は遅れて上昇するため、直近の国債のデュレーションに近い7年後に金利が0.5%または1%上昇すると仮定して試算した」と土居教授は説明する。その結果、金利が0.5%上昇した場合、国・地方の公債等残高対GDP比は2033年度までは低下するが、その後反転上昇する。金利が1%上昇した場合、2031年度を底に上昇に転じ、2037年度には2026年度の水準を上回る。
名目成長率の低下も両立を阻む
内閣府の試算では、成長戦略実現ケース①よりも名目成長率が0.5%前後低いケース②では、国・地方の公債等残高対GDP比が2035年度以降に反転上昇する結果が示されている。土居教授は「名目成長率が0.5%前後低下しただけでも、経済成長と財政の持続可能性の両立は実現しない」と指摘し、内閣府の試算が微妙な前提の上に成り立っていると批判する。
それでも両立を目指すなら、プライマリーバランス(PB)の黒字をさらに確保する必要がある。成長戦略実現ケース①の名目成長率が実現する前提で、金利が0.5%上昇した場合、PB黒字を対GDP比で約0.7%追加(トータル約1.5%)すれば、40年度の債務GDP比を現状試算と同水準に維持できる。金利が1%上昇した場合は、追加で約1.3%(トータル約2.2%)のPB黒字が必要となる。
高市内閣の試算の矛盾
土居教授は、高市内閣が2026年1月に示した中長期試算の成長移行ケースでは、国・地方の公債等残高対GDP比が2035年度に160%近くまで低下するシナリオだったのに対し、成長戦略実現ケース①では2040年度でも170%近くにしか下がらず、「志の低さが露呈している」と批判する。
「PB黒字化目標を軽んじた結果、ちょっとした金利上昇に直面しただけで、経済成長と財政の持続可能性が両立できない羽目になる」と土居教授は結論づけ、より厳格な財政規律の必要性を強調している。



