元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、定年後の人生を豊かに過ごすためには、人間関係を信頼できる9人程度に絞り、本当に好きなことだけに時間と費用を注ぐべきだと主張する。精神科医の保坂隆氏の提言を引用し、「広く浅い付き合いよりも、少数の深い関係のほうが精神的や経済的な安定につながる」と述べている。
「本当に好きなこと」以外は切り捨てる
佐藤氏は、定年後の生活では行動範囲や人間関係をあえて限定すべきだと強調する。心身の健康維持や経済的な安定、精神的な余裕を確保するためだ。現役時代の広すぎる人間関係は定年後に負担となることが多く、義理の付き合いや気乗りしない活動を減らすことで経済的不安も軽減できるという。
「定年後、無限に時間があるわけではない。本当に楽しいと思える活動に集中すれば、満足度の高い生活が送れる」と佐藤氏は説く。趣味や地域活動など、質の高い人間関係に絞ることが孤独な老後を避ける有効な手段だと指摘する。
コロナ禍がもたらした価値観の変化
新型コロナウイルスの流行は、定年後の人々の生活や意識に大きな変容をもたらした。佐藤氏は、コロナ禍が「健康・安全」「人間関係」「働き方」「日常の幸福」に関する新たな価値観を明確にしたと分析する。
具体的には、感染リスクを避けつつ健康を維持するため、ウォーキングやジョギング、ガーデニング、懸賞応募などが新たな趣味として定着した。「近場」「一人」「屋外」「黙考」の安全な楽しさが認識され、遠出や人混みを避けて自宅周辺で過ごすことが重視されるようになった。
また、リアルな人間関係の再構築も進んだ。対面コミュニケーションの減少により、本当に必要なつながりとは何かを再発見する機会となり、「密から疎への転換」が起きた。一人で過ごす時間が増える中で、孤独感と向き合いながらデジタル技術を活用して孤立を避ける方法が模索された。
世の中に期待しない人は孤独にならない
佐藤氏は、定年後の幸福には「世の中に過度な期待をしない」姿勢も重要だと指摘する。期待が大きいほど失望も大きく、孤独感を深める原因となる。むしろ、自分自身の趣味や関心に集中し、無理に人間関係を広げようとしないことが、精神的な安定につながると述べている。
「失敗より後悔するのは『やらなかったこと』」と佐藤氏は強調し、定年後も新しいことに挑戦する意欲を持つことの大切さを説く。ただし、それはあくまで自分が本当に好きなことに限るべきであり、無理な付き合いや義務感から行動する必要はないという。
「定年=引退」と捉えないこと
佐藤氏は、定年を「引退」と捉えるのではなく、新たな人生のステージと考えるべきだと提言する。現役時代の経験や知識を活かしつつ、自分らしい生き方を模索することが重要だ。そのためには、人間関係を絞り込み、本当に価値のある活動に集中することが不可欠だと結論づけている。



