東京電力は今年1月、柏崎刈羽原子力発電所6号機を再稼働させたが、福島第一原発事故や相次ぐ不祥事で失った信頼回復は道半ばだ。元東電社員で同社の安全啓発・創造センター所長も務めた小池明男さん(62)は、東電の組織上の問題点や改善への取り組みについて、過去の事故や不祥事が異なる部署で起きたことに着目し、「東電全体に共通する組織文化に問題があるのではないか」と考えるに至ったという。
事故の本質は「当たり前の前提」
小池さんは東電在職中、原発部門には直接関わっておらず、大きな事故やトラブルについては後から詳しく知ったという。特に、2002年に発覚した自主点検記録の改ざんや、07年の中越沖地震で発生した柏崎刈羽原発の変圧器火災の際は「会社が倒れてしまうのではないか」と危機感を抱いた。
11年に福島第一原発事故が起きた後、組織や社員の意識改革に携わるようになった。15年から事故に関する資料の収集やデジタル化を開始し、政府や国会などの調査報告書を比較・分析。報告書に記された関係者の証言のうち「(重大事故が)起こるとは思っていなかった。事態を想定する必要性も感じていなかった」という点に特に着目した。
組織文化の研究では、米マサチューセッツ工科大学名誉教授が提唱する「3層モデル」という理論がある。組織文化を〈1〉目に見える行動など〈2〉共有される価値観〈3〉当たり前の前提・考え方――に分類するもので、小池さんは「福島第一原発事故の本質は、『東電内部の当たり前の前提』に問題がある」と考えた。
全社員研修で意識改革
当たり前と考えていることを変えるには、個々人の自律性を引き出すことが有効だとして、18年に全社員向けの研修を開始。21年には社内に設置された安全啓発・創造センターの所長として取り組みを進めた。研修では小グループで議論や質疑を重ね、東電の組織風土の根底にある「安全最優先が必ずしも徹底されない理由」を掘り下げた。「時間や作業効率」「複雑なルールを守るのが面倒」などの本音も漏れたという。
小池さんは約3万人の東電グループ社員に対し、こうした研修を2回ずつ実施。社員が問題の本質を認識し、共有することで「このままではいけない」と意識改革につなげるのが狙いだった。
信頼回復への道
東電は今年1月、福島第一原発事故以来約14年ぶりに原発を再稼働したが、世間の視線は厳しいままだ。小池さんは東電社員に対し、地域住民に「私たちのどこが不安なのでしょうか」と問いかけ、忠告に耳を傾け、誠実に改善に取り組むことが重要だと説く。そして「『(東電が)私たちは安全最優先の文化に生まれ変わった』とアピールしても理解は得られない。社員一人ひとりが地域に顔を見せ、真摯に改善に取り組み、そうした変化を実感してもらうことしか信頼回復への道はない」と強調する。
小池さんは1987年東京大学法学部卒業後、東京電力に入社。主に経営企画や営業などを担当し、22年に東電を退職。著書に「失敗しない『人と組織』」(BOW&PARTNERS)がある。



