埼玉県春日部市にある「首都圏外郭放水路」は、大雨や洪水から暮らしを守る治水施設です。「防災地下神殿」とも呼ばれる調圧水槽には、高さ18メートル、重さ500トンの柱が59本並び、荘厳な雰囲気を感じられます。
水が流れにくい地形と都市化の影響
国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所の影山一樹・建設専門官によると、中川・綾瀬川流域は「平地で河川の勾配が緩やかなため水が流れにくく、昔から洪水に悩まされてきた」といいます。都市化に伴い、保水機能を持つ田畑が失われたことも水害の要因の一つとされています。
そのため、1993年に着工した首都圏外郭放水路は、約13年の歳月をかけて建設されました。地下50メートルの深さに総延長6.3キロ・メートルのトンネルを設け、川の水位が一定の高さを超えると水が自然に施設へ流入する仕組みです。影山さんは「この放水路は法律上、河川に分類される」と話しています。
巨大な調圧水槽と強力なポンプ
トンネルは五つの円柱状の穴「立坑」とつながっており、その深さは約70メートル。米国の自由の女神像やスペースシャトルがすっぽり入る大きさです。水は立坑やトンネルを経て、地下約22メートルにある長さ177メートル、幅78メートルの調圧水槽にたどり着きます。
放水路全体では、50メートルプール約450杯分の水をためることができ、最終的に水はポンプで江戸川に流されます。影山さんは「このポンプは日本で2番目に強力」と説明します。航空機用のものを改造したガスタービンの動力を使い、1秒間に25メートルプール1杯分の排水が可能です。
過去の稼働実績とPR活動
これまで最も施設が稼働したのは、2015年9月の関東・東北豪雨です。数日にわたり計約1900万立方メートル、50メートルプールに例えると1万3000杯分の水をため、排水しました。これまでに約1600億円の浸水被害を軽減したという試算もあります。埼玉県だけにとどまらず、川がつながる都内の治水にも貢献しています。
施設は地下にあるためあまり目立ちませんが、PRにも力を入れています。防災地下神殿内などを映す多くのモニターが並ぶ中央操作室は、映画やドラマ、ミュージックビデオなどの撮影に使われているそうです。放水路の機能を紹介する「龍Q館」もあり、SNSなども活用し、積極的にその役割を周知。最近は観光ツアーの一環として訪れる人も増えています。
影山さんは「施設があるから大丈夫ではなく、仕組みを知ってもらい自分の事として考え、行動するきっかけにしてほしい」と話していました。