「都心では物価が高いので、生活していくのが大変だ」「地方は物価が安いので、生活費が都心に比べてあまりかからない」と世間で言われていることは、本当なのでしょうか。連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京と地方の両方の生活を経験して感じたことを交えながら、お金に関する情報をお伝えします。
ソロ移住の不安とシェアハウスの提案
近年、注目が集まる単身での地方移住、いわゆる「ソロ移住」。都心に比べて家賃を抑えつつ、広々とした部屋で自由に暮らす生活は確かに魅力的です。しかし、いざ1人で未知の土地に飛び込むとなると、「現地で孤立してしまわないか」「防犯面は大丈夫か」といった不安がよぎることもあります。特に単身での移住は、日々のちょっとした出来事を話せる「話し相手」が近くにいない寂しさを感じやすいものです。また、女性の単身移住であれば、セキュリティや防犯面から「誰かが同じ屋根の下にいる安心感」は何にも代えがたいメリットになります。
そこで、ソロ移住のスタートとして提案したいのが、地方での「シェアハウス暮らし」という選択肢です。
地方のシェアハウスがもたらす安心感とつながり
地方自治体や地域づくり団体の中には、移住検討者に向けて魅力的なシェアハウスを運営している事例が数多くあります。例えば、徳島県名西郡神山町が展開する民家改修プロジェクト『「すみはじめ住宅」の「西分住宅」』では、移住者が地域にスムーズに溶け込めるような共同生活の場が提供されています。また、岐阜県でも、移住希望者が一定期間シェアハウスで暮らしながら地域の魅力を体感できるプログラムが実施されています。これらの場に共通するのは、最初から「誰かがいる」という心強さです。新しい生活の中で「他愛もないことを話せる相手」がいる環境は、慣れない土地での孤独感を一気に吹き飛ばしてくれます。
異なる価値観は「家族」でも同じ
一方で、「見ず知らずの他人同士が一緒に暮らすのは、ストレスが溜まるのでは?」と不安に思う方もいるでしょう。確かに、生活に対する価値観や衛生面での基準、生活音への気遣いなどは人それぞれ異なります。しかし、これはシェアハウス特有のデメリットというわけではありません。よく考えてみれば、実家を出て新しく築く「家族」や「配偶者」であっても、本を正せば異なる環境で育った「他人同士」です。誰かと暮らす以上、お互いの歩み寄りとルール作りが必要なのは、相手が家族であってもシェアハウスの同居人であっても本質的には同じなのです。むしろ、最初から「他人である」と割り切れているからこそ、適度な距離感を保ちながら、お互いを尊重し合えるルールに基づいた快適な関係性を築きやすいという側面もあります。
「1年間限定」と割り切り、次へのステップに
シェアハウスに一生住み続ける必要はありません。おすすめなのは、「まずは1年間だけ」と期間を決めて入居することです。この最初の1年間で得られるメリットは大きいです。ネット検索や行政の窓口だけでは辿り着けない「地元のリアルな情報」や「地域の慣例・暗黙のルール」を、一緒に暮らす同居人やコミュニティを通じて自然に教えてもらうことができます。「あそこのスーパーはあのお肉が安い」「あのエリアは冬の雪かきが大変」「地元のあのお祭りは参加したほうが楽しい」といった住んでいるからこそ知ることができる情報は、現地で暮らす先輩たちの言葉が一番確実です。シェアハウスという温かいセーフティネットに守られながら、現地でのネットワークを広げ、次のステップ(自分1人での賃貸物件探しや一軒家の購入など)に向けた準備をじっくり進める。これこそが、単身だからこそできる柔軟な移住戦略と言えるのではないでしょうか。
おわりに
ソロ移住のハードルを下げてくれる1つの手段として「地方でのシェアハウス暮らし」を提案します。家賃や初期費用を抑えられるだけでなく、防犯面の安心感と、かけがえのない「人のつながり」を同時に手に入れることができます。「1人で移住する」からといって、最初からすべてを1人で背負い込む必要はありません。まずは、仲間がいる温かい場所を拠点に、自分らしい地方生活をスタートさせてみませんか。
高鷲佐織(たかわしさおり)ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構(相談員)。



