インド人富裕層の間で海外移住ブームが加速している。2023年までの13年間で約188万人がインド国籍を放棄し、毎年20万人以上が市民権を手放している。国連推計によれば、2024年のインドからの国外移住者総数は1853万人超で、世界最大規模だ。この現象を分析した著書『Secession of the Successful: The Flight Out of New India』を執筆したジャーナリストのサンジャヤ・バル氏は、ニューデリーでのインタビューでその背景を詳述した。
富裕層の国外流出:資産48億円以上が2万人近く
バル氏によると、インドには資産48億円(約4000万ドル)以上の富裕層が2万人近く存在し、その多くが海外移住を検討している。特にシンガポール、カナダ、オーストラリア、米国、英国が人気の移住先だ。バル氏は「インドの富裕層は、ビジネスのグローバル化や子女教育の質、生活水準の向上を求めて国外へ出る傾向が強い」と指摘する。また、インド政府が2020年に導入した「外国為替管理法」の改正により、個人の海外送金限度額が年間25万ドルに引き上げられたことも、移住を後押ししているという。
社会摩擦と規制緩和が移住を促進
バル氏は、富裕層の海外移住が「成功者の離脱」と呼ばれる現象を引き起こしていると警告する。インド国内では、富裕層と一般市民の経済格差が拡大し、一部で社会摩擦が生じている。バル氏は「富裕層が税金や社会的責任を回避して国外へ逃れることで、国内の不平等がさらに悪化する懸念がある」と述べた。また、インド政府のビジネス規制緩和策が、富裕層の海外資産運用を容易にしたことも要因の一つだ。
中国人富裕層との比較
この現象は、中国人富裕層の海外移住ブームと類似点が多い。昨年刊行された『潤日』では、中国人富裕層が日本へ脱出する実態が描かれたが、インドでも同様のパターンが見られる。バル氏は「両国とも経済成長に伴い富裕層が急増したが、政治的不確実性や社会的制約から国外に活路を求める傾向が強い」と分析する。ただし、インドの場合は英語が公用語であるため、英語圏への移住がよりスムーズである点が異なる。
インド政府の対応と今後の展望
インド政府は富裕層の流出を食い止めるため、税制優遇措置や投資促進策を打ち出しているが、効果は限定的だ。バル氏は「インドの富裕層は、国内でのビジネスチャンスが減少していると感じており、海外での投資や生活を優先している」と述べる。また、新型コロナウイルス禍を経て、リモートワークの普及が移住をさらに促進したという。バル氏は「この傾向は今後も続き、インドの経済発展に影響を与える可能性がある」と警告した。



