日本、米国、フィリピンが進める経済構想「ルソン経済回廊」が、中国を意識した地政学的競争の舞台となっている。米トランプ政権は先端AI分野の主導権掌握を目指し、ルソン島の拠点化を推進。日比、台湾もそれぞれの思惑で米国に歩調を合わせる。
経済回廊構想の変遷
岸田元首相、バイデン前米大統領、マルコス比大統領が「ルソン経済回廊」の設立を発表したのは2024年4月。ルソン島西部のスービックからクラーク、首都マニラ、南部バタンガスを鉄道で結ぶインフラ整備が主眼だった。しかし、半年後の米大統領選でトランプ氏が再選し、構想は「停止状態」とみられていた。トランプ氏がバイデン時代の政策を覆し、アジアへの関心が維持されるか危ぶまれたためだ。
昨年12月、米国が経済安全保障の国際枠組み「パックス・シリカ」を打ち出すと風向きが変わった。台湾・中華経済研究院アセアン研究センターの徐遵慈主任は「様子見だった関係国が動き出し、経済回廊の機運が戻った」とみる。
AI・半導体拠点への投資
今年4月、フィリピンはパックス・シリカへの参加を表明。米国は経済回廊の一環として、クラーク近くの新都市ニュークラークシティーに、AIや半導体産業への投資を促進する約16平方キロメートルの産業拠点を設立すると発表した。
比政府によると、今年第1四半期の海外からの投資は426億4000万ペソ(約1115億円)に上り、前年同期比52.3%増となった。クラーク、スービックの旧米軍基地の土地再利用を進める基地転換開発公社(BCDA)トップは6月、米国の大手ハイテク企業など50社がニュークラークシティーへの進出に関心を示していると明かした。
回廊の南端となるバタンガスも活況だ。住友商事が出資するバタンガス州の「ファースト・フィリピン工業団地」では1月、米航空宇宙大手コリンズ・エアロスペースが生産拠点拡大を決定。国内第2の港であるバタンガス港では、東京ガスが昨年、比財閥が運営する液化天然ガス受け入れ基地に出資した。マニラにつながる高速道路では急ピッチで拡張工事が進んでいる。
同州のマンダナス副知事は本紙の取材に「ルソン経済回廊はパックス・シリカを具現化するためにある。バタンガスは各国の投資で、台湾の高雄のような国際港湾都市を目指す」と強調した。
「若い国」海洋の要衝
パックス・シリカは、トランプ氏に近いとされるジェイコブ・ヘルバーグ米国務次官(経済担当)が主導する。名指しはしないものの、レアアースの世界一の生産国である中国による先端分野の供給網支配への対抗を意識する。
すでに24か国・機関がパックス・シリカの署名メンバーに名を連ねる。そのうち日米比、韓国、英国、オーストラリア、スウェーデンはルソン経済回廊の参加メンバーでもある。世界でも有数の活力ある「若い国」で、日本、台湾とともに第1列島線に位置するフィリピンへの注目は高まっている。
日本は一貫してフィリピンを重視してきた。マニラを中心にルソン島の南北を走る通勤鉄道の建設は国際協力機構(JICA)の支援で進む。
台湾の期待
台湾も熱視線を送る。昨年8月には林佳竜外交部長が米台の経済関係者とともにルソン経済回廊の各地域を視察した。外交関係のないフィリピンでの異例の行動だった。台湾の頼清徳政権は日比との対中国連携を模索し、台湾南部からルソン島を結ぶ「台湾・フィリピン経済回廊」も提唱している。在フィリピンの台湾窓口機関は本紙の取材に対し「台湾は半導体、電子製造、AIなどで優位性があり、豊富な労働力と英語人材を誇るフィリピンと高度な補完性がある」と強調した。



