合成紙大手のユポ(東京都千代田区)は1969年の設立以来、顧客の困り事に応えるビジネスモデルを半世紀にわたり現場で実践してきた。クレーム対応を最大の商機と捉え、営業・開発・テクニカルサービス・共創推進の4部門が連携する独自の組織体制を構築。ベテランの暗黙知をAIで次世代へ継承しようとしている。
クレームこそ最大の商機
ユポはもともと農業用資材として生まれた素材だが、現在は建築現場の養生シートや医療現場のトリアージタグなど多様な用途へ広がっている。内藤勝弘社長は「顧客が何かしら困り事を抱えて素材を探す中でユポに行き当たり、自分たちで加工して試すケースが非常に多い」と話す。
同社は農業用資材としてユポを提供し始めたが、耐水性が評価され、今では食品工場やLED電球の養生シートとしても使われている。「当初は、そんな用途は全く想定していませんでした」という。
災害時に負傷者の状態を識別するトリアージタグにも使われている。トリアージタグには、雨を始めとした現場の過酷な環境に対応できる耐候性が不可欠だ。
顧客から「ユポはどう管理されているのか知りたい」と呼び出され、顧客企業を訪問して初めて自社製品が使われていることを知るケースもあった。取材先の業界情報を学びながら、用途を広げてきた。
現場に寄り添うビジネスモデル
顧客の要望に応える中で、製品の改良を重ねてきた。その結果、製品のバリエーション(仕様グレード)が非常に多くなった。内藤社長は「私が現場にいた頃は、製品グレードを5つか6つ覚えていれば事足りていました。ですが今は数が増え、とても覚えきれません。顧客の困り事に合わせて、新しいものを作ってきたからです」と語る。
そうなると、営業と研究開発、テクニカルサービスなど部門間の連携が極めて重要になる。「まさに部門を横断した課題解決が重要になります」と内藤社長は言う。
同社は開発と営業の間に、テクニカルサービス担当がおり、基本的に彼らが間に入る。営業といっても、同社の営業は代理店などを通じて販売するため、単に商品を売り込んだり価格を交渉したりするのが主業務ではない。「機能を紹介し、どう使えるかを顧客と一緒に考え、現場の中に入り込んでいくことが役割です」と説明する。
価格交渉や製品のお届けは代理店が担ってくれるため、同社はどちらかというと、新しい使い道(用途)を作り出す方がメインだ。「これはこの用途専用です」と決めつけず、ポケットをたくさん持っていて、これが注目ならこちらを出す。そうやって困り事に寄り添っていくのが同社のやり方だ。
組織体制の変革とAI継承
この伝統的なアプローチをより強化するため、近年は組織体制そのものを見直した。内藤社長は「実はこの2年間で、大きく組織体制を変えてきました」と明かす。
同社にはもともと「一人で全部できるように」という教育と考え方があり、一人の営業がすべての業務を抱え込むスタイルだった。しかし、顧客の相談が高度化・多様化する中で、それでは限界がきた。
そこで教育や構造を改め、営業の中に開発部署やテクニカルサービスが担っていた機能を一部入れ、営業自身が高度なソリューションを提案できる形にした。逆に開発の側にも市場開発機能を持たせ、双方行きで歯を温めながら市場性を確認していく役割を持たせている。
さらに、7月に実施したリブランディングに合わせて「価値を共に創る」という考え方に基づいた専門部署「共創推進」を作った。「正面から顧客と向き合い、一緒に価値を創ります。何でもご相談ください」と社外に打ち出した。これで営業、テクニカルサービス、開発に共創推進を加えた4つが一体となって動く体制が整った。
一人の営業が時間のかかる長期案件も、目の前の短期案件も同時に抱え込んでは持たないため、時間のかかる案件は専門部署でじっくり温め、営業は用途の開拓を広げる方に注力してもらうという「役割の分業化」を進めた。
「形だけにせず」の実践
「飾って飾り入れず」と言うが、組織や体制を変えたとしても、そこに実質を伴わせられるかどうかは別の問題だ。部門をまたいだ連携を機能させるために、何が必要だと考えるか。
内藤社長は「言葉で『歯を入れよう』と意識したところで、形だけになり、真の連携は生まれないと思います。ただ、ユポという素材は昔から、決して『誰でも簡単に扱える万能な素材』ではありませんでした。特殊だからこそ、導入現場で必ず何かしらの課題やトラブルが起きます。それでも事業を伸ばすためには、営業・開発・技術が部門の垣根を越え、何とか現場で解決するしかなかった。それが当社の半世紀にわたる歴史です」と語る。
例えば「うまく養生できない」という現場の悩みがあれば、養生できるようになるまで顧客にずっと寄り添い続ける。そうした経験が社内に蓄積され、周りもその姿を見て育ってきたため、自然と同じ行動が取れるのだという。「私自身も若手の頃は、トラブルが起きたら解決するまでお客様の元から帰ってきませんでした。『どうにかして使ってもらおう』と必死に知恵を絞る中で、また別の新しい用途やアイデアが生まれていく。だからこそ、ユポにとって『クレームは最大の商機になる』のです」と内藤社長は締めくくった。