前回、AIバブルが崩壊するとすれば何が起点になり得るかを整理した。では、崩壊の時期を当てられない投資家は何をすべきか。答えは意外なほど平凡で、「真の分散投資」への回帰である。上昇でも崩壊でも致命傷を負わないポートフォリオを、あらかじめ組んでおくことだ。
長期的な投資成果は「資産配分」で決まる
長期的な投資成果の大半は、銘柄選定ではなく資産配分で決まるとされる。重要なのは「どの銘柄を買うか」ではなく、「どのようなリスクと相関を持つ資産クラスを、どんな配分で持つか」である。株式は景気拡大局面の成長エンジンだが、後退局面では大きく下落する。債券は株式と逆に動きやすく、価格変動を抑える安定剤となる。金は株式・債券のどちらとも相関が低く、インフレや有事に強い傾向がある。
実際、米国株が低迷した2000年代にも、複数資産を組み合わせたバランス型ポートフォリオは相対的に安定した成果を維持した。特定の資産に賭けるのではなく、異なる値動きの資産で互いの損失を相殺し合う。これがマルチアセット運用の本質であり、日本の公的年金を運用するGPIFが株式と債券をおおむね半々で保有しているように、実務の世界では王道の手法である。
「110−年齢」を株式比率の目安に
具体的な組み方の出発点は「110−年齢」というシンプルなルールだ。110から年齢を引いた数値を株式比率の目安とし、残りを債券に充てる。30歳なら株式80%・債券20%、50歳なら60%・40%である。若いほど損失を挽回する時間と将来の労働収入があるためリスクを取れるが、退職が近づくほど回復の余裕が減るので安定資産を厚くする、という考え方だ。
ここに金を全体の5~10%加えれば、株式市場急変時の緩衝材となる。株式は米国だけでなく先進国・新興国へ、債券も国債と社債、長期と短期を組み合わせれば、資産クラス内の偏りも避けられる。なお「110−年齢」はあくまで出発点であり、収入や資産規模、価格変動への心理的な耐性に応じて、自分に無理のない水準へ調整すればよい。
年代ごとに変わる資産運用の力点
そのうえで、年代ごとの力点は変わっていく。
20~30代は、金融資産よりまず自分に投資する時期である。収入を伸ばす自己投資を優先しつつ、少額でも市場に参加して値動きへの心理的耐性を養う。挽回する時間が長いぶん、生活防衛資金を確保したうえでなら、株式中心の攻めた配分も許容される。
40~50代は、バランス運用への転換期である。資産の7~9割を「110−年齢」に沿った株・債券・金のコア資産に据え、残り1~3割のサテライトで個別株やテーマ投資を行うコア・サテライト戦略が有効だ。資産額が大きくなるほど、同じ下落率でも失う金額は大きくなることを忘れてはならない。
60~70代は、取り崩しの設計が主題となる。運用を止める必要はない。債券比率を高めて変動を抑えつつ運用を続け、計画的に売却して生活費に充てるほうが、資産寿命は延びやすい。65歳時点の平均余命は男性で約19年、女性で約24年。この長さを考えれば、インフレで実質価値が目減りする現預金への全面退避こそがリスクになり得る。
年に一度はリバランスを行う
最後に、組んだポートフォリオは放置しないことだ。相場変動で目標配分から乖離したら、年に一度でもよいのでリバランスする。高騰した資産を一部売り、下落した資産を買い増す行為は逆張りに見えるが、あらかじめ定めた配分を守るための機械的な対応であり、長期運用では極めて合理的である。暴落時に慌てて方針そのものを変えることこそ、最も避けるべき失敗だ。
AIの未来を信じることと、資産を分散することは矛盾しない。予測を一点で当てるのではなく、どちらに転んでも生き残る構えを作る。それが「真の分散投資」の実践である。
ブルーモ証券 代表取締役CEO 中村仁



