日本の法律事務は、93年間にわたり「弁護士資格」によって守られてきた。資格のない者が報酬を得て法律事務を扱えば「非弁行為」として処罰される。その大原則のもとで、すべての法律相談や契約書チェックサービスが提供されてきた。
しかし今、法務省はAI時代のリーガルテック開発において、スタートアップが萎縮することのないよう、AIサービスが非弁行為に当たるか否かの「線引き」を明確にしようと動き出している。朝日新聞の報道(※)によると、同省がまとめる新ガイドライン(指針)は、非弁行為に当たらない適法サービスの範囲を明示し、実質的な規制緩和へ一歩を切る内容だという。
※朝日新聞「法務省がAI法律の新ルール策定 リーガルテック後押し、規制緩和へ」(2026年8月18日)
非弁行為で社長逮捕 「モームリ」の事例
非弁行為は、弁護士法72条で定義されている。弁護士でない者が報酬を得る目的で、紛争事件の法律事務を業として扱うことを原則禁止し、違反した場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金を科す。
報酬目的で事件を弁護士に取り次ぐ「周旋」、いわゆる非弁提携も同罪だ。この規制の原型は1933年(昭和8年)、他人の紛争に割り込んで嗅ぐ「事件屋」を排除するために作られた。
記憶に新しいのが、転職代行大手「モームリ」だろう。同サービスの運営会社は2025年10月に京都府の家宅捜索を受け、2026年2月には代表者らが逮捕された。転職希望者を提携弁護士に紹介し、見返りに「広告費」名目の紹介料を受け取っていたあっせん行為、つまり「非弁提携」が行われていた疑いである。
転職代行そのものは違法ではない。本人の転職意思を伝えるだけなら法律事務に当たらない。だが未払い賃金の「交渉」に踏み込めば非弁行為となり、有償で弁護士に流せば非弁提携となる。
人間がやれば逮捕される「資格なき法律サービス」をAIはどこまで提供できるか
これまでAIは「弁護士の道具」だった。スタートアップに立ちはだかる壁
2026年1月の規制改革推進会議で明確化されたのは、「サービスの提供主体が弁護士である場合や、利用者が弁護士として業務に用いる場合は原則72条違反にならない」という基本だ。
つまり、AIを安全に扱えるのは、弁護士がサービスを設計するか、弁護士がAIを法律事務に使うときであるという資格に依存した基本である。
事業責任者に資格保有者がいない場合は、グレーゾーン解消制度(事業者が現行の規制の適用範囲が不明な場合においても、安心して新事業活動ができるよう、具体的な事業計画に基づき、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度)の回答でもたびたび「72条に違反する可能性がある」という文言が繰り返され、世に出るはずだったサービス芽が自粛に追い込まれる「萎縮効果」が懸念されていた。法務省からはまだ正式なガイドラインが出ていない。
リーガルテックの担い手は、その多くがスタートアップである。資金と人材が限られるスタートアップにとって、生死を分けるのは技術力よりも市場選定である。狙う市場を間違えれば、良い製品でも売れずに終わってしまう。
例えば、従来の規制によれば、AIが契約書レビューをするようなサービスを提供する際、その出力を「弁護士が確認する」工程付けにしなければ安全が確保できず、レビュー1件ごとに弁護士の工数が乗っていた。その結果、単価を劇的に削減することはできない。結局、体力のある企業しかリーガルテックの顧客になりえなかった。
中小企業では法務部門および法務担当者を設置していない企業も多い。弁護士の直接関与を必須としないサービス設計も成り立てば、価格を下げる余地があるだろう。
グローバルインフォメーションの発表によると、世界のリーガルテクノロジーの市場規模は、2025年に287億4470万米ドルと推定されており、2033年までに696億9240万米ドルに達すると予測されている。国内でこの伸びを経済成長に転換できるかは、規制の線がどこに引かれるかにかかっている。
「規制緩和」の方向に一歩、何が変わる? 現状の仮説
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