韓国の大手エンターテインメント企業HYBEは、BTSの世界的成功の背景として注目されている。独自のファンダムプラットフォーム「Weverse」やIPの多角化、MD展開は、多くの知識人や投資家から「これまでにない新しいビジネスモデル」と称賛されている。しかし、一橋ビジネススクール特任教授の楠木建氏は、競争戦略の視点から冷静に分析すると、HYBEのビジネスモデルは決して特殊なものではないと指摘する。
HYBEのビジネスモデルは本当に新しいのか
「これからはコンテンツだ、ファンダムだ、IPだ、MDだ」ということは、業界関係者の共通認識であり、日本のAKB48グループやジャニーズ事務所がやってきたことと大きな違いはないと楠木氏は述べる。競争戦略における真の問いは、ビジネスモデルのきれいさではなく、競合他社が簡単にまねできない持続的な違いを生み出せるかどうかにある。HYBEの真の強みを理解するには、見取り図の先にある能力と仕組みに目を向ける必要がある。
ソニーミュージック元社長・丸山茂雄氏の「予言」
楠木氏は、かつて仕事を共にしたソニー・ミュージックエンタテインメントの元社長・丸山茂雄氏の言葉を紹介する。丸山氏は20年以上前、インターネット普及初期にこう語っていた。「パッケージソフト(CDやレコード)をプラスチックの円盤に詰めて売ることで大儲けする時代は、音楽の長い歴史の中では極めて例外的な、たった数十年の現象にすぎない。インターネットの時代になれば、音楽ビジネスは必ず本来の原点に戻る。それはライブと、それに付随する消費だ」
“生もの”を扱うシステムの構築
HYBEは、アーティストという「生もの」を効率的に管理・育成するシステムを構築している。楠木氏は、このシステムがトヨタ生産方式と共通点を持つと指摘する。トヨタのカンバン方式やジャストインタイムの思想は、無駄を排除し、需要に応じた生産を可能にする。HYBEも、ファンダムの需要をリアルタイムで把握し、コンテンツやMDを供給する仕組みを持っている。
「マルチホーム戦略」の罠
HYBEは、BTS以外にも複数のグループを抱える「マルチホーム戦略」を採用している。しかし、楠木氏はこれに潜む罠を指摘する。複数のグループを抱えることで、リソースが分散し、それぞれのグループの成長が鈍化するリスクがある。また、ファンダムの競合が生まれ、全体の結束力が弱まる可能性もある。
「深い推し活」は欧米に根付くか
HYBEのグローバル展開において、鍵となるのは「深い推し活」が欧米で受け入れられるかどうかだ。韓国や日本では、ファンがアーティストに深く没入する文化が根付いているが、欧米では比較的ライトなファン層が多い。楠木氏は、HYBEが欧米で成功するためには、現地の文化に合わせた戦略が必要だと述べる。
HYBEの今後の成長は、これらの課題を克服できるかどうかにかかっている。競争戦略の観点から、HYBEの真の強みは、システムと能力にあるが、それが持続可能かどうかは今後の展開次第だ。



