高校生の11人に1人が通信制高校に在籍する時代、卒業後の進路に課題を感じる声がある。そんな中、学歴ではなく人間力で人生を切り拓く「地域を旅する大学」として、さとのば大学が注目を集めている。教育ジャーナリストの中曽根陽子氏が、実際に同大学で学ぶ学生とその保護者に取材し、その実像に迫った。
通信制高校からさとのば大学へ:水産業で自信を取り戻した長曽凜也さん
さとのば大学の3年生、長曽凜也さんは通信制高校を卒業後、同大学に進学。現在は水産業について学びながら、自然農の米作りに情熱を注いでいる。自然と対峙し、地元の大人たちと泥臭く交わる中で、自分自身と深く向き合い、失っていた自信を確実に取り戻していったという。
実践を通じて手応え:土井明華音さんの挑戦
2年生の土井明華音さんも、さとのば大学ならではの「実践」を通じて確かな手応えを感じている。全日制の進学校に進んだものの、詰め込み教育に違和感を覚えて通信制高校に転校。高校卒業後の進路に迷っていた時にさとのば大学を知り、即決で進学を決めた。
もともと食に興味があった明華音さんは、「朝市がある田舎に行きたい」と、1年目は秋田県五城目町へ。文化や言葉の違いに最初は苦労しながらも、関心のあった発酵への熱意を活かし、地元の酒蔵で副杜氏として働き始める。さらには酒粕酵母を使ったパンを作って販売したり、90代のおばあちゃんにインタビューをしながら、地元のお茶っこ文化や街の魅力を紹介するマップ作りを行うなど、主体的に地域へ溶け込んでいった。2年目の現在は、岐阜県郡上市で完熟堆肥作りのプロジェクトに参画。地元中学校の資源循環プロジェクトにも関わるなど、日々を忙しく、そして生き生きと駆け抜けている。
保護者の本音:「結果的には、わが子にとって最高の選択だった」
いくら素晴らしい教育内容であっても、わが子が「一般的なルート」から外れることに対し、保護者はどのような心境だったのだろうか。お二人の保護者に話を伺うと、最初は戸惑いながらも、決して頑なに反対したわけではない、温かい親心が返ってきた。
「娘がさとのばの合格通知を送ってきたとき、びっくりはしましたが、反対するつもりはありませんでした」と振り返るのは、明華音さんの父親。わが子が「ここに行ってみたい」と前を向いて語る姿を見て、むしろ中途半端に大卒資格を取るより活動に専念したほうがよいと、背中を押したという。今では、父親自身が「共創オーナー」としてさとのば大学を応援する心強いサポーターの一人だ。
また、凜也さんの母親は、現在の姿を見て「圧倒的な経験値が育む『真の生きる力』が社会から評価される」と語る。
「真の生きる力」が社会から評価される時代へ
さとのば大学のような取り組みは、従来の学歴重視の価値観に一石を投じる。地域を旅しながら実践的に学ぶことで、主体性や人間力を養うことができ、卒業後のキャリアにも好影響を与えている。保護者たちも、その変化を目の当たりにし、最初の不安から確信へと変わったようだ。
教育現場や家庭で「ウェルビーイング」が叫ばれる中、子どもたちの幸せを考えるならば、画一的なレールだけでなく、多様な選択肢があることを知ることが重要だ。さとのば大学の事例は、その一つのモデルケースとして、多くの示唆を与えてくれる。



