「あなたにはこれ」への抵抗感と美容部員への信頼
日本の美容関連産業を「Jビューティー」としてブランディングし、成長戦略に結びつける官民の動きが加速している。その鍵を握るのが、消費者の行動や心理の把握だ。博報堂生活者発想技術研究所の十河瑠璃上席研究員と嵯峨美和子上席研究員に、美容消費の最新実態を聞いた。
十河氏は「2021~22年ごろからSNSで『〇〇界隈』という言葉が広がり、共通の趣味や価値観を持つコミュニティを起点に商品が広がる『界隈消費』が浸透している。美容もその代表例だ」と指摘。界隈は熱量と共感で成り立ち、みんなで楽しむことや「いいね」を得ることに価値を感じる人が増えた結果、界隈で支持された商品が一気に拡散しやすくなったという。
嵯峨氏は「SNS文化の広がりは個人の美容との向き合い方にも影響を与えている」と述べる。韓国では美容テクノロジーへの信頼が強く、整形を含む美容医療が日常的な選択肢として受け入れられている。その影響で、日本でも美容についてオープンに語る人が増え、美容医療への心理的ハードルが下がってきたと分析する。
界隈消費とメリハリ消費の台頭
十河氏は、美容消費のトレンドとして「界隈消費」と「メリハリ消費」の2つを挙げる。界隈消費では、特定のコミュニティ内で推奨される商品が爆発的に売れる一方、消費者は自分に合わないと感じると冷める傾向がある。例えば「あなたにはこれ」と提案されることへの抵抗感が若い世代で強まっており、押し付けがましいマーケティングは逆効果になりかねない。
一方、メリハリ消費とは、節約すべきところは徹底的に節約し、こだわる部分には惜しみなくお金をかける消費スタイルだ。美容分野では、基礎化粧品はドラッグストアで購入する一方、美容医療や高級スキンケアには積極的に投資する傾向が見られる。嵯峨氏は「消費者は情報収集に時間をかけ、自分にとって本当に価値があるものにお金を使うようになっている」と説明する。
美容部員への信頼感が復活
こうした中、店頭の美容部員への信頼感が再び高まっているという。嵯峨氏は「SNSで情報が氾濫する中、リアルな対面でアドバイスをくれる美容部員の存在が貴重になっている」と指摘。特に、押し売りではなく、消費者の悩みに寄り添う接客が評価されている。
十河氏も「美容部員は単なる販売員ではなく、界隈のオピニオンリーダー的な役割を果たしつつある」と述べる。消費者は美容部員の提案を信頼し、その結果、ブランドロイヤルティが向上するケースも多い。ただし、過度な提案は「あなたにはこれ」的な押し付けと受け取られるリスクもあるため、バランスが重要だ。
Jビューティー戦略への示唆
官民で進めるJビューティー戦略には、こうした消費者の変化を踏まえたアプローチが求められる。十河氏は「単に日本の美容技術を売り込むのではなく、消費者の共感を得るコミュニティ形成が重要」と強調。嵯峨氏も「メリハリ消費に対応するため、高価格帯の商品には明確な価値提案が必要だ」と付け加える。
今後の美容産業は、SNSを活用した界隈消費の促進と、リアル店舗での信頼構築の両立が鍵となりそうだ。



