野球のグラブが近年、大きく進化している。新しいブランドが次々と生まれ、独自の設計や理論に基づいて、捕球しやすくなったり、球速アップにつながったりするものなどバラエティー豊かだ。令和のグラブ事情を紹介する。
関西最大級の専門店に40超のブランド
関西最大級の野球用品専門店「スポーツアクト セカンドステージ」(京都市)には、40を超えるブランドのグラブがずらりと並ぶ。取り扱うブランド数は、ここ10年で2倍近くに増えたという。
新興メーカーは機能や個性が際立った商品が多い。同店の山口侑士店長(32)は、投球の回転数などを計測する「ラプソード」やフォームの動作解析といった技術・機器の進歩が背景にあるとみる。市場が成熟し、規格品よりも自分に合ったものを求める消費者ニーズの多様化も後押しし、「メーカーが増えて研究が進み、プレースタイルに適したグラブを使うことが上達につながる時代になった」と話す。
新興ブランドの挑戦
少子高齢化で野球人口も減り続ける中、独自ブランドに生き残りをかけるのは、グラブメーカー「丸和」(大阪市)だ。大手メーカーのグラブ生産を引き受けてきたが、受注減少を受けて2018年に独自ブランド「ディークエスト」をつくった。
当時は少なかった中学生向けの硬式用グラブを自社開発。成長途上の細い手首にも合うように、手首部分のバンドに伸縮性のある素材を使うなど工夫を凝らしており、フィット感が人気になった。利用者からも「自分の手に合ったグラブが使えてありがたい」との声が寄せられているという。
現在は革の硬さや厚みまで選べるオーダーメイドに力を入れる。同社営業本部の川口知宏マネージャー(54)は「アマチュア選手にも理想のグラブを使ってもらいたい」と意気込む。
投手向けグラブに特化
独立リーグの元内野手で、柔道整復師の崔現大(さいげんだい)さん(39)は、けがで悩む選手を施術するうち、自身の経験や知識を生かして「体をうまく使うサポートを用具でできないか」と考え、19年からグラブを開発。東京都内を拠点に会社を設立し、ブランド「ごりら印の野球道具」を展開している。
特に重点を置くのが、けがをすることが多い投手を対象としたグラブだ。足の土踏まずと同様に手のひらにもあるというアーチ(湾曲)に着目し、自然とアーチが形作られるように設計。手から腕や肩までの連動性が高まり、投球時のパフォーマンスアップや負担軽減につながるとしている。投法ごとに違う体の使い方を分析し、上手投げや横・下手投げの投手に特化したグラブも用意している。
社会人の強豪チームの選手が使用したことがSNSなどで話題を呼び、現在は全国各地の野球用品店で取り扱われるまでに成長した。「リラックスした状態で投げられる」「球速が上がる」と好評を得ているといい、崔さんは「ここまで広がるなんて予想していなかった」と驚く。
大手も差別化へ
名古屋市在住の野球教室経営者が創設したブランド「B―link」は、小指と薬指を同じ部分に入れる「コユニ(小指2本入れ)」と呼ばれるグラブを展開する。力を入れやすくなってグラブの開閉がスムーズになるのが利点といい、打球を強くつかめるようになると人気を集めている。
市場の変化を受け、大手各社も差別化を図ろうと動き出している。
ミズノ(大阪市)は昨年2月、球速が約0・34キロ上がるという投手用グラブ「スピードレボ」を発売。手のひら部分を二重構造にして硬さを持たせることで、投球時にグラブをぐっと握り込んで力を入れやすくなり、連動して体の回転速度が上がって腕の振りも速くなるという。グラブの企画開発を担当する茂木結矢課長補佐(36)は「独自色を打ち出した商品を作ろうという機運は高まっている」と強調する。
エスエスケイ(同)は、高いレベルで品質水準をそろえることに注力。19年から全てのグラブの設計を0・1ミリ単位で見直し、昨年はグラブ職人との連携強化のため、国内自社工場を構えた。革の個体差もあって厚みなどにばらつきが生じる課題があったが、縫製や裁断手法を徹底管理することで均質化できたという。
グラブの歴史と進化
様々なブランドがしのぎを削るグラブ市場。今後はどんなグラブが生まれてくるだろうか。世界初の「ポジション別」は日本メーカーが売り出した。
米国で1845年に現在の基となるルールができた野球の黎明期には、素手でボールを扱っていたという。グラブの始まりは75年、手にけがをした選手が手袋をはめて試合に出たことだとされる。77年には米国の老舗スポーツ用品メーカー「ローリングス」が初めて革製のグラブを製造した。
日本に野球が伝来したのは72年。その後、ミズノが1913年に日本で初めてグラブの製造を始めた。発売当初の価格は約2円だったという。同社は34年には、世界初のポジション別グラブとなる捕手のミットを売り出している。
公認野球規則ではグラブの素材について「革製」とのみ記しているが、基本的に牛革で作られる。ミズノによると「豚や羊の革を試したこともあるが、強度などで牛革を超える素材はない」。大きな進化の中で、変わらないものもある。



