ラッパのマークで知られる正露丸は、80年にわたり家庭の常備薬として親しまれてきた。大幸薬品が製造・販売するこの薬は、その強烈な臭いと苦味で有名だが、実は旧日本陸軍の兵士でさえ抵抗を示したという逸話が残っている。軍の首脳部が「明治天皇陛下のおぼしめしの薬(御神薬)」として奨励したほどだが、屈強な兵士でさえ嫌がる臭さだった。
正露丸の臭いと苦味への挑戦
正露丸の特徴である臭いと苦味は、子どもに飲ませるのに一苦労だった。大幸薬品の社内では「売れているのならそれでいいのではないか」という議論もあったが、顧客からは「臭いがきつい」「飲みにくい」という意見が多く寄せられていた。そこで、お腹の不調を抱える幅広い人に薬を届けたいとの思いから、より飲みやすく携帯しやすい商品の開発が始まった。
セイロガン糖衣Aの開発と苦戦
1966年には、主成分を木クレオソート以外に変更し、白い糖衣で飲みやすさを高めた「セイロガン糖衣」を発売。さらに改良を重ね、1981年には木クレオソートを主成分としながら臭いを抑えた「セイロガン糖衣A」を発売した。しかし、販売当初は売り上げがかなり厳しかった。柴田仁会長によると、顧客の中には「この臭いと苦味があるのが正露丸」「臭いがあるから効くんだ」という人が多かったという。
15年間の地道なプロモーションが実を結ぶ
そこで大幸薬品は、正露丸とセイロガン糖衣Aを同じCMで並べるなどのプロモーションを15年間にわたって継続した。すると徐々に試す人が増え、家庭環境や使用状況によって使い分けられるようになった。セイロガン糖衣Aは子どものいる家庭などに浸透し、2009年の売上高では正露丸19億3000万円に対し、セイロガン糖衣Aが19億3800万円と初めて逆転(連結決算ベース)。以降2021年まで医薬品事業で最も高い売上高となるヒット商品に成長した。
効能の証明という新たな課題
しかし、セイロガン糖衣Aの開発により大幸薬品が勢いを増す裏で、医薬品メーカーとして避けて通れない問題が発生していた。それは「なぜ効くのか」の証明だった。この課題については後編で詳しく述べられる。



