「給与、自分で決めていいよ」組織図も職種定義もない老舗鋳造メーカーが管理なしで成果を出せる理由
給与を自分で決める老舗鋳造メーカー、管理なしで成果

もし、来年の給与を「自分で決めていい」と会社から言われたら――。読者の皆さんは、どのように自身の給与を決定するだろうか。1924年創業の老舗鋳造メーカー、木村鋳造工業(大阪府枚方市)では、社員が自ら希望する給与額を提示する「自己申告型給与制度」を導入している。

「適切な人事評価制度をどう構築するか」に悩む経営者たち

「適切な人事評価制度をどう構築するか」は、多くの経営者や人事担当者が頭を悩ませる課題だ。さまざまな職種、役職の人々を適切に評価するために、360度評価を導入したり評価者訓練を重ねたりと、奔走を続けている企業も少なくない。木村鋳造工業は、自己申告型給与制度の導入によって、そうした「他者が評価する仕組み」を手放した。

驚くべきことに、同社には組織図もなければ、職種定義書や業務申請もない。それにもかかわらず、日々異なる製品を製造する複雑な現場は、指示命令なしで自主的に動き、高い生産性を維持している。

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「自己申告型給与制度は、私たちが目指す『自由型組織』を実現するための仕組みです」と語るのは、4代目社長の木村彰一氏だ。社員はどのように自らの給与を決めているのか。そして、企業側は社員の給与設定の妥当性について、どのように判断しているのか。制度導入から6年がたった今、同社ではさまざまな変化が起きたという。管理やルールを排除した組織がどのように機能しているのか、木村社長に聞いた。

なぜ自己申告型給与制度は成立するのか

自己申告型給与制度だけが注目されがちだが、制度だけ導入してもうまく運用することは難しい。なぜならこの制度は、背景にある組織の考え方や企業風土と切り離せないからだ。木村社長が組織作りに当たって重要視しているのが、ベースを「心配」から「信頼」へとシフトすることだ。

「世の中の多くの組織は、ベースに『心配』があるのではないでしょうか。ルールがないと社員がサボるのではないか、マネジメントがしっかり機能しなければパフォーマンスが上がらないのではないか――。そんな心配が前提にあるからこそ、ルールで人をコントロールしようとする発想になります」

木村社長は、会社としての足場を「信頼」に置くことの重要性を説く。「社員を信頼する」と足場を定めれば、おのずと不要なルールは削ぎ落とされ、管理コストも削減する。信頼があるからこそ、社員は自主的に動き、それぞれの責任を果たそうとする好循環が生まれるという。

組織図も職種定義書もない流動的な組織

「信頼」をベースに展開する木村鋳造工業の組織は流動的だ。木村社長は「組織は生き物のベータ版である」と語る。市場環境や社員数など、状況が変われば、組織の最適な形も常に変わるのが自然だからだ。組織を固定的な構造物として捉えがちな社員の意識を排除するため、同社では組織図や職種定義書を作っていない。例えば、ある社員の名刺には「営業マーケティング本部」、別の社員の名刺には「マーケティング部」と書かれている。部署名も各社員が自由に決めているという。

一般的な組織図がない代わりに、同社では「グループ」を設けている。社員は必ずどこかのグループに属しており、各グループには1~2人のマネージャーがいる。「社員の居場所――社員にとっての住民票のようなイメージです」。実際の業務では、このグループとは別に、プロジェクトやチームが自由に立ち上がる。プロジェクトやチームは管理されておらず、経営陣が把握していない集団もあるという。

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製造現場でも信頼と自由の思想が貫かれる

管理やマニュアルによる縛りが強いとされがちな工場の製造現場においても、信頼と自由の思想は貫かれている。同社の工場では、日々、異なる製品を製造している。1日に複数品目を各ラインで作ることも珍しくない。工場のホワイトボードには2週間分の製造計画が貼り出されているが、そこでマネージャーが決めるのは「今日、どの製品に対してどのメンバーを割り当てるか」ということだけだ。各ラインで「誰がどの工程を担当するか」という具体的な役割分担は、現場の判断に委ねられている。

製造業の現場では、各社員の担当の持ち場を固定し、時間当たりの作業効率を計測して個人を評価するのが一般的だ。その方が管理しやすく、ミスの原因追跡もしやすい。しかし同社では、ミスが起きても「誰のミスか」を一切問わない。個人の数値を細かく追うこともしない。「『あなたの担当はここです』と枠をはめてしまうと、人はクリエイティビティを発揮しづらいと考えています。マネージャーが細かく人員配置を決めていたら、一人一人はその役割をこなすだけで『より良くするには』を意識しなくなります。『今日、このメンバーで一番パフォーマンスを発揮するにはどうすべきか』。現場が自分たちで考え、工夫する方がクリエイティブです」

同社では、ほぼ残業なしで日々の製造計画を達成し続けているという。現場全員が自分ごととして捉えているからこそ、欠員が出た場合は人員を再配置し、スピードが遅ければ速くする工夫を考えるなど、自発的に助け合っているそうだ。

業務書も廃止、意思決定は「自己承認」

同社では、業務書も廃止されている。意思決定は「自己承認」が基本だ。社員は自分の判断で行動し、後から報告する。木村社長は「承認を得るために時間を費やすよりも、まずやってみて、うまくいかなければ修正すればいい」と語る。この姿勢が、社員の主体性とスピード感を生み出している。