NTTドコモ傘下の金融持ち株会社であるNTTドコモ・フィナンシャルグループ(ドコモFG)が7月1日に事業を開始した。このタイミングで、同社の廣井孝史社長に、その背景と今後の戦略について聞いた。
8月3日から社名を「ドコモSMTBネット銀行」に変更する現在の住信SBIネット銀行が、コンシューマ向けに「ドコモの銀行」というブランドを打ち出し、まずはモバイルのドコモユーザーを中心にサービスを訴求していく。
そして法人向けにはBaaS(Banking as a Service)のNEOBANKサービスをさらに強化。銀行機能のBaaS提供に加え、クレジットカードのdカードと決済のd払いを、「ホワイトレーベルの形で提供していきたい」との考えを披露した。
「ドコモの銀行」の狙い
廣井社長は1986年に現在のNTTに入社。2005年には中期経営戦略推進室担当部長に就任しており、三井住友カードへの出資を含む提携の報告を受ける立場にあったという。その際のドコモ側の報告者は吉澤和弘氏で、その後の2018年に新たな協業として資本提携を見直したときにはドコモの社長になっていた。2005年の提携はクレジットブランド「iD」やクレジットカードサービスの「DCMX」が登場するなど現在のdカードに繋がっており、今後は廣井社長がドコモFGのトップとして舵取りをする形になっている。
この2000年代初頭を振り返った廣井社長は、NTTがインターネット回線でYahoo!BBの後塵を拝しており、まだ光ファイバーによるFTTHサービスが広がっていない中で、「ネットワーク以外の収益をもっと多様化して増やさなければいけない」という検討が始まっていたという。三井住友カード以外に、生命保険会社への出資も検討するなどしていたそうだ。
そこからdカードは大きく成長したが、ここ数年は携帯事業における金融連携のニーズがさらに高まったことから、ドコモでもマネックス証券やドコモ・ファイナンスなどの金融事業に取り組んできた。そして住信SBIネット銀行の買収によって、他社に遅れないようにさらなる取り組みを進めていく考えだ。廣井社長は、「モバイルオペレーターにとって、金融がユーザーをリテイン(維持)するために重要な機能になっている。この価値が低いとユーザーに選んでもらえなくなる可能性がある」と指摘し、トータルで金融サービスを提供できる体制を整えたと強調する。
ブランド刷新とコンシューマ向け強化
携帯キャリア4社の中では最後発となった銀行への参入だが、前述のとおり8月3日には住信SBIネット銀行の社名をドコモSMTBネット銀行へと変更する。サービスは、コンシューマ向けを「ドコモの銀行」、法人向けのBaaSを「NEOBANK」として刷新。当初設定されていた「d NEOBANK」のブランド名は廃止する。
廣井社長は、まずはコンシューマ向けに金融サービスを強化する方針で、「金融サービスをどんどん使っていただきたいということが第一義にある。おサイフケータイなどでデジタル決済に慣れたユーザーに、付加価値の高いバンキングや証券といった新しいサービスを普及させていきたい」と話している。
銀行サービスとのシナジーを発揮するためには、決済における大きなユーザー基盤を抱えるドコモブランドを打ち出すのが最適と判断した。廣井社長は、「昔からの住信SBIネット銀行ユーザーで、ドコモ(のサービス)を使っていない人にとっては、ドコモのイメージが強すぎるという意見もあるが、サービスの機能は変わらない」と強調。
こうしたシナジーは証券分野にも拡大する。すでに「ドコモのNISA」といった形でコンシューマ向けサービスとのシナジーを訴求しており、さらにドコモの銀行向けにスイープ口座を開発中で、「銀行から証券へとユーザーをスムーズに誘導できると考えている」と廣井社長は話す。
ちなみに、NTTグループの職域においては、管理職の報酬に株式報酬を導入し、その取り扱いをマネックス証券に委託している。こうした取り組みでも口座数や取扱高の増加が図られており、それもシナジーの一環だとしている。
マネックス証券については、ドコモが100%の株式を保有しているわけではないため、「思い通りにコントロールできるわけではない」と廣井社長。ただ、事業成長においてはドコモとのシナジーが有用だと判断しており、ドコモ色は徐々に強まるというのが廣井社長の判断。社名やサービス名全体の変更に関しては、「あえて急ぐ必要はなく、実際の提携の深さや実績が出て、納得感にもとづいた連携が進む」ことが必要だとした。
法人向けにはホワイトレーベルも
当面は、ドコモユーザーを中心としたシナジーを最大限にすることで、銀行の拡大を図る考えだが、住信SBIネット銀行における法人ビジネスも「不可欠」だと廣井社長は強調する。
NEOBANKによるBaaSを活用し、法人ユーザーに対する金融機能の提供をさらに強化していく方針だが、将来的には「クレジットカードや決済サービスなども、ホワイトレーベルの形で提供していきたい」と廣井社長は話す。ホワイトレーベル、つまりは相手先のブランドでの提供という形になる。これまでもNEOBANKとしては、日本航空(JAL)や髙島屋、ヤマダ電機、第一生命など、多くの企業のブランドで銀行サービスを提供している。
さらに、ドコモの回線サービスでは、JALブランドでahamoの回線サービスを提供する「JALモバイル powered by ahamo」があり、これも同様の取り組みと言える。逆にJALは自社でマイレージサービスを持つため、dポイントを自社サービスに組み込む必要がない。こうした各社のニーズに合わせて金融・決済サービスを組み合わせ、さらにモバイルサービスも組み込んで提供できるというアプローチが検討されている。
金融の価値を高めモバイルとも連携
コンシューマ向けのモバイルと金融との連携サービスについて、廣井社長は、「現段階で、銀行ユーザーとモバイル回線をバンドルするような戦略的な組み方はしていない。まずはdカードやd払いのユーザーと銀行を結びつけることが第一段階」との考え方を示す。
もちろん、ドコモのモバイルユーザーを成長ドライバーの中心に据えているため、銀行への誘導は強化する。これまで、dカードやd払いとの連携を行ってきた実績があり、ショップも活用できることから、銀行や証券へ誘導できる潜在的な余地は大きいと廣井社長は分析する。
まずは「ドコモの金融」としての価値を高め、ユーザーとの結びつきを強化するのが第一弾で、その結果として、ユーザーの継続利用に繋がり、モバイルとの連携に発展させることを目指す、というのがドコモFGの戦略だと廣井社長は話している。



