変革の歩法を再考せよ
AIによる劇的変化が叫ばれる中、日本企業はシリコンバレー流の「ラジカルな組織変革」こそ唯一の正解だと焦り、プラットフォーム型やサブスクリプション型への一気の移行を迫られている。しかし、早稲田大学商学学術院の井上達彦教授は、こうした破壊的イノベーションだけが答えではないと指摘する。
井上教授は、既存の強みを生かしながら「気がつけば大きく変わっていた」というインクリメンタル(漸進的)な変革こそ、日本企業の土壌に適していると主張する。その好例として、今や盤石の収益基盤を築いたソニーグループや総合商社の歩みを挙げている。
ソニーの「継続モデル」への執念
現在のソニーの躍進を支えているのは、過去の失敗に学びながらも、やるべきことを粛々と実行する「継続モデル」への執念である。かつてソニーは、ビデオ戦争で現パナソニックに敗北を喫し、「ハードウェアの性能だけでは勝てない」として、ソフトやコンテンツ戦略に舵を切った。
その後、映画会社を買収してIP(知的財産)の要諦を学び、音楽コンテンツでも世界的なアーティストの著作権の管理や受託を徹底。単なる提供にとどまらず、使用承諾と引き換えに料金を徴収するストック型のモデルを構築した。このように、一気にビジネスモデルを変えるのではなく、段階的に蓄積してきた強みが現在の収益基盤を支えている。
総合商社の漸進的変革
総合商社もまた、漸進的変革の好例である。資源価格の変動に左右されやすいビジネスから、安定した収益を得るために、長年にわたって投資ポートフォリオを多角化し、リスク分散を図ってきた。特に、非資源分野での事業投資を拡大し、安定的なキャッシュフローを生み出す仕組みを構築している。
井上教授は、こうした事例は「破壊的イノベーション以外にも成功の道はある」ことを示していると述べる。日本企業は、自社の強みを活かしながら、段階的に変革を進めるアプローチを再評価すべきだ。
変革の焦りが生むリスク
一方で、シリコンバレー流の劇的変化を急ぐあまり、既存の顧客や事業基盤を軽視すると、かえって競争力を失うリスクがある。井上教授は「焦って無理な変革を進めるより、自社のリソースを活かした持続可能な変革が重要だ」と警鐘を鳴らす。
AI時代だからこそ、短期的な成果を追うのではなく、長期的な視点で自社の強みを磨き、徐々に進化させることが、結果的に大きな変革をもたらす可能性がある。日本企業は、アメリカ流の「劇的変化」だけが正解ではないことを認識すべきだろう。



