富士通の業務、個人の「勘や経験」を組織で再利用 データ、KPI、仕事を「AI前提」に変えた方法
富士通が個人の勘や経験を組織で再利用するAI活用法

「AIを入れれば仕事は本当に変わるのか」。富士通でエンタープライズ事業を担当する執行役員常務の古田英明氏は、AI活用が広がる一方で「AIを入れたけれど効果が出ない」という声を顧客から聞くことがあるという。

AIを使えば、一部の仕事が速くなり便利になる。他方、組織として成果を出すには、AIを導入するだけでは足りない。古田氏が富士通の営業部門で進めているのは、データを整え仕事を可視化し、目標やKPIを設定した上で、ルールやプロセスそのものを変えていく取り組みだ。

AI活用の前に「まず仕事とデータを整える」

富士通では現在「AIドリブンの仕事の仕方」を全ての事業部門、本部で進めている。その際に共通して必要になるのが、データの整備と成果の明確化、そしてルールやプロセスの変更だ。

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古田氏が担当する営業部門は約5000人。関係部署も含めると約7300人が関わる組織で、さまざまな部署から依頼が殺到するという。

「どこからどんなリクエストが来ているかが見える化できていなかった。かなり混とん(混とん)とした状況でした」

そこで米Asanaの業務管理システムを導入し、部門をまたいで殺到する依頼を一元的に管理した。日々の依頼がデータとして蓄積されることで、部門間で重複している依頼や、どこで仕事が滞留しているか見えるようになった。

「これとこれは一緒にやった方がいいよね」といった判断も、データを基にできる。これまで「何が起きているか見えない」ことで生じていたストレスも減り、「何かあればシステムの中に入れよう」というルールが組織全体に浸透していったという。

ただ、データを集めれば、それだけですぐにAIに使えるわけではない。「データを生む仕事の筋をそろえておかないと意味がない」と古田氏は指摘する。

例えば「プライオリティーが高い」という情報一つを取っても、担当者によって基準が違えば、受け取る側には正しく伝わらない。データの粒度や形式、マスターの筋なども整備し、組織内で定義を統一する必要がある。

AIに正しい回答を出力させるには、データを構造化し、業務を標準化しておくことが前提だと指摘する。

「勘と経験と暗黙知」をどうデータ化?

こうした考え方は、営業部門のAI活用にもつながっている。

営業には「勘と経験と暗黙知」が蓄積されている。提案準備で集めた顧客情報、顧客との対話、その後の振り返りや気付きなどが、それぞれの営業担当者の個人メモにとどまりやすい。

「本来であればこれはうまくいった、これは失敗した、そういった内容をしっかりパターンに落として進めていく必要がある」

そこで富士通では、AIを使って営業活動の情報を蓄積し、組織の知識として再利用する仕組みを整えている。

営業担当者と顧客との対話ログや、電話営業を担うメンバーの会議ログなど、これまで個別に存在していた情報をAIで整理し、業界ごとの営業ノウハウなどを蓄積する。そこから営業活動を支援するAIエージェントも育てている。

AIエージェントをただ導入するだけではなく、共通の言語や考え方をそろえるための研修、データを共有することが評価される仕組みなど「循環する仕掛け」を作ることが重要だという。「できる人の個人の経験値を、組織の中で再利用できる仕掛けを作っていく必要がある」(古田氏)

AIは、個人の経験や仕事上の気付きを表徴化し、ドキュメント化することにも使える。それを個人のデータとして閉じず、組織のデータとして蓄積し、再利用する。古田氏は、こうした仕組みが営業に限らず、製造現場の知恵を活用する製造現場にも通じると指摘する。

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KPI設計も工夫

古田氏は、AIを前提とした仕事の再設計が必要だと語る。本記事はアサナジャパン主催カンファレンス「Work Innovation Japan」(8月26日開催)の古田氏による講演「AI・データを価値に変える仕事の仕組み ―富士通の働き方変革と実装知」を基に構成。KPI設計にも工夫を凝らしているという。