「スマートフォンやスマートウォッチの普及で、時計業界は斜陽産業だ」——そんな風潮を跳ね返すように、シチズン時計の快進撃が続いている。前2026年3月期に同社の時計事業は売上高1970億円(前期比10.0%増)となり、全盛期だった1990年代の過去最高水準に迫る規模となっている。株価は1年前の800円台から、足元は2200円台で推移している。
日本メーカー全体が好調
時計メーカーの健闘はシチズンに限らない。25年に日本の時計メーカー各社の輸出は金額・数量とも2ケタ増となった。「グランドセイコー」を軸に高付加価値戦略を進めるセイコーグループ、カシオ計算機も「CASIO WATCH」が好調だった。
背景にあるのは、本場スイスの高級時計メーカー各社によるすさまじい値上げだ。原材料高や為替影響に加え、各ブランドがラグジュアリー化を進めたことで、スイス時計の割高感が強まっている。値上げに疲れた消費者の受け皿として、品質と価格のバランスに優れる日本メーカーへの関心が高まっているのだ。
シチズンのマルチブランド戦略
時計市場全体で見ると販売数量は漸減しており、いかに単価を引き上げるかが焦点となっている。その中でシチズンは独自の戦略を採る。日本、アメリカ、スイスで複数のブランドを展開し、地域や販路、顧客層ごとに使い分ける「マルチブランド戦略」を推し進めている。
シチズンが単一ブランドでのグローバル展開に限界を覚え、海外ブランドのM&Aへ舵を切ったのは00年代のことだった。アメリカ市場では「シチズン」ブランドに加え、スポーティーな「プローバ」、そしてスイス製の「フレデリック・コンスタント」を展開。欧米では6万円台の機械式腕時計「TSUYOSA Collection」がヒットしている。
アメリカ市場での構造改革
シチズンはアメリカ市場で長年、量販店向けの低価格帯が主体だったが、近年は専門店や百貨店向けの中価格帯へシフト。スイス勢の値上げで生じた3万~10万円の「空白地帯」を狙う。18年目を迎えたマルチブランド戦略が実を結び、2025年の米国での売上高は過去最高を更新した。
「値上げに疲れた消費者が、品質と価格のバランスが良い日本ブランドに流れている」とシチズン時計の担当者は分析する。同社は今後もブランドポートフォリオを拡充し、世界市場での存在感を高める方針だ。



