サナエノミクスに潜む初歩的勘違い:恒等式を政策目標にする資金需要論の危うさ
サナエノミクスに潜む初歩的勘違い:恒等式の危うさ

高市早苗政権は、策定中の「日本成長戦略」において、官民合わせた投資規模を2040年度までに計370兆円程度とする方針を打ち出している。これは単純計算で1年当たり約25兆円という大規模な投資計画であり、AI(人工知能)・半導体、量子、防衛、航空・宇宙、創薬、核融合発電、国土強靭化、コンテンツなど戦略17分野で積み上げる方針だ。

政府計画に含まれる「初歩的なミス」

中国に対抗する形で、欧米でも政府主導の戦略的投資は拡大している。経済安全保障の観点を含め、政府が危機管理投資や成長投資に力を注ぐこと自体は肯定すべき点がある。また、PB(基礎的財政収支)黒字化だけを唯一の物差しにした財政運営に問題があるのも事実だろう。

しかし、こうした「サナエノミクス」を支える「理論」には、ある大きな勘違いが含まれていることが、経済学者の間では常識になりつつある。それは、何なのか。そして、将来にどんな禍根を残しかねないのかを見ていこう。

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混同すると、どんな誤算が生じかねないか

問題の核心は、経済学の基本である「恒等式」を政策目標に据える危険性にある。恒等式は定義上常に成立する関係であり、それを達成目標にしても実質的な意味を持たない。例えば「GDP=消費+投資+政府支出+純輸出」という恒等式を「投資を増やせばGDPが増える」と解釈するのは誤りで、因果関係ではなく定義上の関係に過ぎない。

今回の成長戦略では、官民投資の総額を370兆円と設定しているが、これは「資金需要論」に基づくものだ。資金需要論は、投資が増えれば自然と成長が実現するという考え方だが、実際には投資の質や生産性向上が伴わなければ持続可能な成長にはつながらない。経済学者の間では、このような「投資額ありき」の政策は、過去の失敗例(例えば日本の公共投資の非効率性)からも疑問視されている。

また、370兆円という数字自体も、根拠が曖昧だ。政府は「官民合わせて」としているが、民間投資を政府がコントロールできるわけではなく、目標達成のための具体的な手段が示されていない。結果として、無理な投資拡大が財政悪化や資源の誤配分を招くリスクがある。

リフレ論から繰り返される過ち

このような「勘違い」は、過去のリフレ(リフレーション)政策の議論でも繰り返されてきた。アベノミクス期には「マネタリーベースを倍増すればインフレ目標が達成できる」という主張があったが、実際には貨幣供給量と物価の間には直接的な因果関係はなく、期待インフレ率の上昇にはつながらなかった。

同様に、「投資を増やせば成長する」という単純な図式は、経済学の教科書では否定されている。投資の限界効率や、技術革新、人的資本への投資など、質的な要素を無視した量的目標は、過去の日本でも「無駄な公共投資」を生み出した経験がある。

高市政権の成長戦略は、これらの教訓を踏まえていないとの批判が経済学者から上がっている。野村明弘東洋経済コラムニストは、「サナエノミクスに潜む初歩的な勘違い」として、恒等式を政策目標にすることの危うさを指摘している。

今後の日本経済にとって、投資の量的拡大よりも、生産性向上や規制改革、人材育成など、質的な改革が重要であることは言うまでもない。政府には、数字合わせに終始するのではなく、実質的な成長につながる政策を期待したい。

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