米国のスコット・ベッセント財務長官は3日、自身のX(旧ツイッター)で日米の協調介入を発表し、「高市政権はアベノミクスの新たな段階へ進もうとしている。約15年にわたる景気刺激策により、日本経済は持続的で力強いものになった」と投稿した。米国はドル高・円安を嫌い、日本の対応を望んでいる。
「アベノミクス」は、日本経済が長期のデフレに苦しんでいた2012年、首相に就いた安倍晋三が進めた経済政策の通称だ。積極的な財政出動と金融緩和で経済の底上げを図り、金融市場では円高の是正と株高が進んだ。
現在の日本はインフレ(物価上昇)と円安が進み、状況が異なる。ベッセントが「新たな段階へ」と強調したことについて、日本政府高官は「積極財政と金融緩和はやめろと言っているのに等しい。米国は介入では日本に協力したが、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の転換を求めている」と受け止めた。
高市政権の積極財政と金融市場の反応
安倍を「政治の師」と仰ぐ首相の高市早苗は、昨年10月の就任後、財政出動と減税策を相次いで打ち出した。昨冬決めた一般会計補正予算の歳出は、コロナ禍後では最大となる18.3兆円に上る。ガソリンなどの暫定税率廃止に加え、今年7月30日には食料品の消費税減税も正式に表明した。
首相の積極路線に対し、金融市場では財政不安が意識され、長期金利の上昇が進んでいる。新発10年物国債の流通利回りは、高市政権発足前は年1.6%前後で推移していたのが、7月に30年ぶりの水準となる2.9%台にまで一時上昇した。
米国は、日本の金利上昇が飛び火し、米国債の利回り上昇につながらないかと神経をとがらせている。
日銀への利上げ圧力
日本の金融政策にも、米国は厳しい視線を向けている。ベッセントは今年1月、スイス・ダボスで財務相の片山さつきと非公式に会談した際、「ずっと政策金利を上げろと言ってきたのに、なぜ上げないんだ」と厳しい口調で迫った。
2022年以降、インフレを受けて米欧が政策金利を引き上げた際、日本銀行は緩和的な金融環境を維持した。利上げで景気が冷え込むのを懸念したためだが、その結果、日米の金利差が広がり、円安・ドル高を進行させる副作用も深刻化した。
今回、日米は足並みをそろえて協調介入に踏み切ったが、米国は今後、日本への要求を強めてくる可能性がある。利上げに否定的な高市の姿勢がいつまでも容認される保証はない。みずほ証券シニアマーケットエコノミストの松尾勇佑は「米当局は、協調介入と日銀の利上げはセットだと考えている」と断言する。
実際、ベッセントは4日の米CNBCテレビのインタビューで「介入によって市場にシグナルを送ることはできても、相場の流れを変えるのは政策だ」と強調。日銀総裁の植田和男の名前を挙げて「彼が必要なことを実行すると信じている」とも述べ、利上げを求める考えを示唆してみせた。
今後の焦点
ベッセントと植田は、8月末に米国で開かれる主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で対面する。その後の9月には、日銀の金融政策決定会合が控えている。
日銀は、利上げが遅れてインフレが加速する懸念を抱えながら、政権への配慮で思い切った手を打てずにいた。日銀OBで金融政策に詳しいABC経済研究所の熊野英生は「日銀はこの機を利用して、利上げ加速に動けるのではないか」との見方を示す。
日本政府は円安局面を打開するため、米国の協力を取り付けるのに成功したが、大きな「借り」を作った形になる。通貨を巡る日米関係は、新たな時代に突入する。



