三菱UFJ銀行の大澤正和頭取は、日本の宇宙産業をグローバル市場で成功させるため、日本の強みを生かした宇宙金融の構築により、産業の成長を支える方針を明らかにした。政府は現在、総額1兆円規模を目標とする「宇宙戦略基金」を本格始動させている。
1兆円の基金と「死の谷」の課題
7月に東京で開催された宇宙ビジネス会議「SPACETIDE」で講演した大澤氏は、宇宙産業が経済成長や国家安全保障の基盤となるフェーズにあると指摘し、「問われているのは、優れた宇宙産業を構築できるかだ」と強調した。
政府による基金の創設やVC(ベンチャーキャピタル)資金の供給により、アーリーステージ(創業初期)の企業数は順調に増加したが、その先の事業化加速(レイターステージ)では数千億円規模の「死の谷(資金ギャップ)」が立ちはだかる。大澤氏は、米スペースXの成功は公的資金と民間資金に支えられた大規模で持続的な資本形成によるものだと説明。「日本は成長ステージにおけるエクイティ(自己資本)の調達手段が限られ、エクイティファイナンスが不足している。成長へのボトルネックとなる」と指摘した。
鍵は「バンカビリティ」と融資の活用
リスクの高い宇宙事業に対し銀行融資を導入するには、返済可能性を意味する「バンカビリティ」を高める必要がある。大澤氏は、日米でエクイティ資本の規模差が約35倍ある一方、融資は3倍にとどまる点に触れ、「日本の強みは、産業の成長をサポートする十分な能力をもった世界最大級の銀行セクターを擁している事実にある。米国のモデルを模倣するのではなく、エクイティの上にどう融資を集めていくかということだ」と強調した。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)では、傘下のVC2社による株式投資に加え、銀行本体が事業リスクを直接引き受ける試みを開始。小型ロケット開発のスペースワンや宇宙デブリ除去のアストロスケールへの支援が具体例で、大澤氏は講演で融資もしてきたことを明かし、「このようなファイナンスを業界全体でより拡大していく必要がある」と呼びかけた。
需要創出と官民連携の重要性
資金供給側だけでなく、衛星データやロケット利用の需要側である「アンカーテナント(大口顧客)」を官民で増やすことも課題だ。MUFGは衛星データのユーザーになる取り組みを進めており、脱炭素社会に向けた二酸化炭素やメタン排出量の可視化・トレーサビリティ確保、人口減少に伴う不動産担保評価や点検作業の省人化・自動化などが例として挙げられる。
大澤氏は「バンカビリティを高める道筋は、需要の可視化(ディマンド・ビジビリティ)と密接に関連している。予測可能な需要がキャッシュフローの可視性を向上させ、バンカビリティを強化し、デット提供者(融資元)のより大きな参入を可能にする」と述べた。
宇宙産業の発展には、産業界、政府、アカデミア、金融機関の協調が不可欠で、大澤氏は「それぞれのセクターには独自の論理と言語がある。だからこそ対話することが非常に重要だ。我々は真の宇宙時代幕開けのスタートラインに立っている。宇宙産業が成長し社会への価値を生み出すことを支援し続ける」と締めくくった。



