電気自動車(EV)シフトが加速する中で、モーターやバッテリーに不可欠なレアアース(希土類)の需要が急拡大している。しかし、その供給の約95%を中国に依存している現状は、日本の産業にとって大きな脆弱性となっている。経済産業省の試算によれば、世界のレアアース需要は2030年までに現在の約2倍に達する見込みだ。
中国依存の実態
レアアースは、EVの駆動モーターに使われるネオジムやジスプロシウムなど17元素の総称で、ハイブリッド車や家電、防衛機器にも広く利用されている。米地質調査所(USGS)のデータによると、2022年の世界のレアアース生産量の約70%を中国が占め、精製・加工段階ではそのシェアは90%を超える。特に、重レアアースと呼ばれる高性能磁石に必要な元素は、ほぼ中国の独占状態にある。
「中国はレアアースを戦略物資と位置づけ、輸出規制を繰り返してきた。2010年の尖閣諸島沖衝突事件をきっかけに、日本向け輸出を事実上停止したことは記憶に新しい」と、資源エネルギー庁の担当者は指摘する。この時、レアアース価格は一時的に10倍以上に高騰し、日本の自動車メーカーや電機メーカーは大きな打撃を受けた。
脱中国の動きと課題
こうしたリスクを背景に、日本政府は2012年から「希土類代替材料開発プロジェクト」を立ち上げ、使用量の削減や代替材料の研究を進めてきた。また、豪州やベトナムなどからの調達多様化も模索している。しかし、新たな鉱山開発には5~10年の期間と巨額の投資が必要であり、精製技術の確立も容易ではない。
「中国以外の国でレアアースを採掘しても、精製工程で中国に頼らざるを得ないケースが多い。サプライチェーン全体での脱中国は、まだ道半ばだ」と、東京大学の資源工学教授は語る。実際、豪州のライナス社はマレーシアに精製工場を持つが、依然として中国の技術やノウハウに依存している部分が大きい。
EVシフトがもたらすジレンマ
EVの普及は、レアアース需要をさらに押し上げる。国際エネルギー機関(IEA)の報告では、EV1台あたりに使用されるレアアースは従来のガソリン車の約3倍に相当する。特に、高性能モーターに不可欠なネオジム磁石の需要は、2030年までに現在の4倍に増加すると予測されている。
一方で、レアアースを使用しないモーターの開発も進んでいる。例えば、トヨタ自動車は2021年に、レアアースを使わない次世代モーターを発表した。しかし、量産化にはコストや性能面での課題が残る。
「EVシフトの恩恵を最大限に受けるためには、レアアースの安定供給が不可欠だ。しかし、中国への依存が続けば、地政学リスクに常にさらされることになる」と、日本総合研究所のエコノミストは警鐘を鳴らす。日本政府は、2023年に策定した「経済安全保障推進法」に基づき、レアアースを特定重要物資に指定し、備蓄や国内生産の支援を強化している。
今後の展望
レアアースの安定確保は、日本の産業競争力の要である。政府は、2030年までにレアアースの中国依存度を50%以下に引き下げる目標を掲げるが、実現には技術革新と国際協力が不可欠だ。また、使用済み製品からのリサイクル技術の確立も急務となっている。
「レアアース問題は、EVシフトの成否を左右する鍵を握る。日本が技術力で先行するためには、資源外交と研究開発の両面で戦略的な投資が求められる」と、前出の教授は強調する。EV市場の拡大とともに、レアアースを巡る国際的な駆け引きは今後さらに激しさを増すだろう。



