原子力発電所で発生する高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場選定をめぐり、東京都小笠原村は4月、第1段階の文献調査を南鳥島で実施することを容認した。国主導で自治体に申し入れた文献調査は小笠原村が初めて。先月末には茨城県常陸大宮市にも国主導の申し入れが行われた。調査が実施されれば、国主導の文献調査は全国2例目、調査実施は北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町と合わせ全国5例目となる。
電力需要増大と原発活用の進展
生成AI(人工知能)などデジタル技術の進化で電力需要が増大し、今後原発の再稼働や建て替えが見込まれる中、持続可能な原子力政策の実現に向け、最終処分地を増やしていく国民的議論を起こせるかが問われている。
最終処分は原子力を利用するすべての国の共通課題。国際社会では宇宙処分や海洋投棄などの方法が検討されたが、現時点では地層処分が最も実現可能な方法とされる。8月、フィンランドの原子力規制当局が最終処分場「オンカロ」が運転許可の安全条件を満たすとする評価書をまとめ、同国政府は今秋にも正式に操業を許可する見通し。スウェーデンやフランスでも処分地は決まっている。
ガラス固化体と地層処分の仕組み
原発の使用済み燃料のうち、95%はリサイクル(再処理)できるが、残り5%は廃棄物となる。この高レベル放射性廃液をガラス原料と混ぜ合わせて固めた「ガラス固化体」を厚さ約20cmの金属製容器や、粘土でできた厚さ約70cmの緩衝材などで何重にも包んで地下300mより深い安定した岩盤に埋め、数万年以上にわたって放射性物質を人間の生活環境から隔離する。
最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、今年3月末時点でガラス固化体は国内に2,530本あり、各発電所に貯蔵されている使用済み燃料を再処理する分も含めると計約2万8千本相当になる。
国は昨年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画で、原子力について「依存度を低減する」としていた文言を削除し、「最大限活用する」方針へ転換。同12月、北海道の鈴木直道知事が安全審査の合格に約12年を要した北海道電力泊原発3号機の再稼働容認を表明。今年1月には東京電力柏崎刈羽原発6号機(新潟県)が約14年ぶりに再稼働した。政府は7月、原発を2040年代までに最大5基増設する方針を決定した。原発の活用が確実に進む中、核燃料サイクルに基づく最終処分場の確保は不可避となっている。
選定プロセスと国主導の取り組み
最終処分地の選定は、①机上調査のみの文献調査(2年程度)②地上からボーリング(採削)調査等を行う概要調査(4年程度)③実際に地下に施設を建設し岩盤や地下水などの性質を調べる精密調査(14年程度)と3段階を計20年程度かけて実施のうえ判断する。この間、放射性廃棄物は一切持ち込まれない。文献調査では、候補地の地質に関する学術書や地図など数千点を収集し、分析を行う。調査受け入れに応じた自治体へは電源立地交付金から文献調査で最大20億円、概要調査で同70億円が支払われる。それぞれの段階で「地域の意見を聴く」と規定されており、対象地域の知事や市町村長が反対すれば先へは進まないとしている。
国内では、2020年11月に北海道の寿都町と神恵内村、2024年6月に佐賀県玄海町、今年5月に東京都小笠原村で文献調査を開始した。小笠原村での調査要請に先立ち、赤沢亮正経済産業相は今年1月、最終処分地選定に関し「地域任せにすることなく、国の責任で地域に協力をお願いしていく」とした「大臣レター」を全国都道府県知事に対して発出。寿都町、神恵内村、玄海町は地元議会や経済界の意向を踏まえた対応だったのに対し、小笠原村は国の申し入れを受けて村長が国の判断を受け入れた初のケースとなった。他の3町村と違い、同村南鳥島は本州から約2,000km離れた全域が国有地で、気象庁など政府職員の駐在以外の一般住民はいない。陸上自衛隊がミサイル射場整備を計画するなど安全保障面でも重要性が高い。
地層処分をめぐっては、政府は2017年7月、「科学的特性マップ」を公表。科学的知見に基づき、火山や活断層など地層処分に適さない地域とともに、輸送面で条件がよい沿岸部など相対的に安全な地層処分に適している可能性が高い地域を示しており、文献調査の対象になり得る自治体は少なくない。“地域頼み”を脱却し、国主導で調査地域の拡大を進めるには国民的な議論が不可欠だ。国は、事業主などとも携わりながら地層処分の必要性や安全性、そのプロセスを国民に丁寧に説明するなど、候補地を増やす不断の努力が求められる。
小笠原村長の思いと有識者の見解
小笠原村の渋谷正昭村長は、文献調査受け入れの理由について「現代において電気がない社会はあり得ない。原子力は廃棄物などの課題がある一方、中東情勢をみても石油の調達は不安定な面があり、脱炭素に向けては化石燃料を使う火力発電を減らさないといけない。再生可能エネルギーは太陽光パネルの設置など自然環境の問題もあり、それぞれのエネルギーが抱える課題を踏まえれば、必要な電力を賄うためには大量の電気を安定して発電できる原発の活用も必要だ。国が原子力政策を進める中、高レベル放射性廃棄物の処理施設や最終処分場が必要になることは自分なりに理解できた。一人でも多くの人に地層処分について知ってほしいとの思いが日に日に強まっている」と語った。
また、「地質学者の意見に触れるなど、南鳥島が安定したプレート上にあることは理解できた。文献調査をすれば施設ができると決まっているわけでもない。文献調査の2年間で私ももっと勉強し、村民の皆さんにも知識を深めてもらうことで、南鳥島が本当に適地なのかをしっかり理解し、判断することができるのではないか」と述べた。
文献調査の受け入れにあたり、国に対し「エネルギー政策等の継続的な検討」「調査地域の拡大」「村民の理解促進」「風評被害の防止」「処分地選定との分離」の5つを求めた渋谷村長は、「7月に南鳥島へ1泊2日で行き、島をしっかり歩いて改めてこんな島なんだと土地勘を持ってきた。村民には南鳥島に本当に施設をつくれるのか、本州から約2,000km離れた南鳥島へ安全に廃棄物を運べるのかなど疑問がある。赤沢亮正経産相は4月に私と面会した際、5項目について『一つ一つしっかり取り組む』と明言した。私としては国を信じて申し入れを受け入れた。国に判断を促しつつ、要望を伝えるやり方が小笠原村以外の他の自治体にも波及してほしいという思いだ」と話した。
さらに、文献調査の実施が全国でまだ限られていることについては、「私の呼びかけで5月に北海道の寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町それぞれの町村長とオンラインで話した際、もっと比較検討する地域を増やしたほうがいいとの考えで一致し、今後連携していきたいと考えている。原発関連に限らないが、施設整備は立地地域の理解と協力が不可欠だ。文献調査や概要調査を自治体のトップや住民が受け入れやすい環境をつくることが重要だ。最終処分場ができるかどうかは別にして、文献調査を受け入れてもいいかなとの思いに至る制度にしていかないといけない」と述べた。
北海道大学大学院工学研究院教授で日本原子力学会会長の小崎完氏は、「青森県六ヶ所村の使用済み燃料再処理工場が稼働すればガラス固化体が徐々に増えるので、責任を持って次世代に負担をかけないために、最終処分場の決定に向けて本気で取り組まなければいけない状況になりつつある。文献調査を受け入れた自治体以外にも候補地が広がることが望ましい。文献調査の次の概要調査では、地層処分に限らず、対象地域の地下深い場所に関する貴重な知見が得られるので、国にとっても地域にとっても有益だ。精密調査や実際に処分場を設置する際は相当議論する必要があると思うが、地域の判断で次の調査には進まないという判断ができるので、概要調査までは進めてもいいと思う」と指摘する。
地層処分の安全性については、「火山活動や活断層によって、処分場の放射性物質が容易に地上に上がってきてしまうのではないかというイメージを抱く人がいるかもしれない。だが、そういうことが起こり得る場所は対象外で、火山活動が心配される場所は避けたり、活断層からある程度距離をとったりして、安定した岩盤に深く穴を掘って処分する。地下水の流れはとても遅いため、仮に放射性物質が漏出した場合でも、地下で少しずつ拡散し、希釈されていく。最終的にわれわれの子孫の健康に何ら問題がないレベルになることを安全評価で確認するので、地層処分は合理的な方法だ」と説明する。
「処分のプロセスや安全評価を多くの国民に理解してもらい、処分の是非を科学的に考えていくことが重要だ。国主導で調査の候補地を拡大するとの意向を表明したことは大きな前進だ。東京電力福島第1原発の処理水放出では、政府は国際安全基準に合致しているとの国際原子力機関(IAEA)の見解を積極的に発信し、懸念払拭に努めた。地層処分に関してもフィンランドやスウェーデンなど最終処分地の選定で先行する事例を今以上に発信し、国民の理解を広げるための支援を続けてほしい」と述べた。
さらに、「今の若い世代はエネルギーセキュリティーや地球温暖化の深刻さを理解し、原子力は重要だと認識する学生が増えている。科学的に正しい情報をメディアや団体、そして小中高での授業など教育を通じて提供することが非常に重要だ。特に科学者は国民が信頼できる知見を提供し、説明していく努力が求められている」と語った。



